ランチを終え、オフィスに向かって歩いていると、円花のスマホが鳴った。開くと、勤めている保険会社の同期である松下悠から、LINEが届いている。
「急だけど、今日の夜空いてたら飲みに行こう!イケメンの友達、連れてくからさ」
―えっ!思わぬチャンス。
まさかこんな誘いがあると思わなかったから、今日のファッションは、そこまで気合が入ったものではない。
しかし、いつ職場で出会いがあるかは分からないので、円花は普段からワンピースやレースのトップスなど、男ウケを意識したファッションをセレクトしている。
―まあ今日の服も、悪くはないよね。
「今夜、空いてるよー!紹介楽しみにしてるね」
さっそく松下にそう返信すると、続けて母親にも連絡を入れた。
「今日、急に飲み会が入っちゃった~。24時までには帰るようにするね」
すると「え~。今日の夕飯は『今半』のすき焼きにしようと思ってたのに~」と母からの嫌味LINEが即座に飛んできた。
円花は、今でも学芸大学の実家に両親と暮らしている。
こうして出会いの場に行くときは実家暮らしということが少々不便ではあるが、ひとり暮らしをしようなんて、円花は考えたことがない。
それは「実家を出る時はお嫁に行くときだ」と、当たり前のように思い込んでいるからだった。
その日の夜。
円花は、指定された東銀座のビストロ『イバイア』に、ウキウキしながら向かった。店に入る直前には、ディオールのグロスを塗り直し、唇をプルッとさせるのも忘れない。
―よしっ、OK!これでイケメンじゃなかったら、松下のこと許さないわ。
ドキドキしながら案内されたテーブルに向かうと、すでに松下たちは到着していた。
「ごめん、お待たせ~!今日は早かったんだね?」
円花は顎の下で手を合わせ、かわいらしく謝りながら、横目で松下の“イケメンの友達”とやらをバッチリ確認する。
―へえ、結構カッコいいかも♡
決して派手ではないが整った目鼻立ちで、落ち着いた雰囲気。円花や松下よりも、少し年上だろうか。
服装を見る限りブランド物ではなさそうなので、そこまで身に着けるものに頓着はないのかもしれない。
「はじめまして。雨宮円花です。松下くんとは会社の同期なんです」
「どうも、篠崎新です。松下とは大学時代、塾講師のバイトで知り合って。大学も同じだし、ずっと仲がいいんですよ」
―じゃあ、大学は早稲田ってことか。学歴は良いのね。
いきなり品定めをするのもどうかと思うが、円花はどうしても婚活のスイッチが入ってしまい、相手のステータスを探ってしまう。
そして乾杯のドリンクが運ばれてきたタイミングで、松下が篠崎の紹介を始めた。そのとき松下が放った言葉に、円花は思わず身を乗り出してしまったのだ。
この記事へのコメント