付き合ってからは彼の並木橋にある1LDKのマンションで、毎日会うようになった。
紗代は当時外資航空会社のCAを辞めて、投資ファンドの秘書をしていた。定時で終わる仕事だったので余裕があり、仕事終わりに近くのスーパー『ライフ』で夕食の買い出しをして食事を作り、彼の帰りを待った。
付き合いたての時期は、これがかなりしんどかった。
暇だから彼の家で一人、SNSを見ている。すると友人たちはお洒落なレストランに行って、彼に買ってもらったプレゼントや旅行先をあげているのに、自分は狭い部屋で1人、ただ彼の帰りを待つだけ。
付き合ってから結婚するまで1年弱だったが、その間に外食をした記憶は、数える程度だ。(ちなみに旅行はこの間初めて行ったくらい。会社が上場したお祝いに近場の温泉に1泊のみ。)
彼は家に帰ってきても深夜2時くらいまでは仕事、土日も仕事、たまの会食は先輩起業家に呼び出されるか、採用のためだけだ。
だから紗代も途中何度もしんどくなって、こっそり他の男性と食事に行ってみたり、本当に彼でいいのか悩んだりしたものだ。
でもなぜ紗代がここまで「お金持ちとの結婚」に執着したのかというと、全ては生まれ育った環境だ。
紗代は郊外の中流階級で生まれ育ったが、父親は零細企業のサラリーマン、母親は専業主婦。食うには困らなかったけど決して余裕はなかった。
紗代は昔から勉強ができたので何とか大学に通わせてもらえたが、妹は「お姉ちゃんが大学に行ったから」という理由で2年制の専門学校を選ぶしかなかった。
それを妹から聞かされたときは、とても辛かった。
だから紗代は、お金で将来を諦める人生にはしたくなかったのだ。そう思ったときに、女性が考える手段は2つ。玉の輿にのるか、自分で成功するか、だ。
もちろん自分で稼ぐ将来も考えたが、そうなるには時間がかかり過ぎる。きちんとキャリアを積んで経済力をつけるには、きっと10年はかかるだろう。そこから結婚して子供をもつのは遅すぎると考えたのだ。
だからこそ裕一との結婚に賭けた。
…でもこれが果たして正解だったのか、自分でも分からない。
裕一と結婚出来て彼の事業も安定してきて、そろそろ第2子を作ろうか、と話している自分たち夫婦は紛れもなく幸せだ。
それに最初は計算高く彼に近づいたけれど、常にストイックに夢を追っている彼のことを心から尊敬するようになったし、いろんな壁を乗り越えた夫婦の絆はとても強い。
でも一緒にいるこの数年間、彼は事業のことしか頭になく、紗代に目が向いていたのは最初の数か月だけだったように思う。
それに…信じたくはないけれど、最近彼に薄っすらと女性の影を感じる。
毎日24時、定時のように帰ってきていた彼の帰宅時間が、最近バラバラなのだ。
だから紗代はこっそり夫のiPadで携帯の位置情報を確認するようになった。
今日食事した後輩たちは「私はできないけど、紗代さんは勝ち組」としきりに言う。
噂によると、いま私のようなステージ“B”男子を狙う女性が増えてきて、その段階にいる男性には、先輩から“女には気をつけろ”なんてお触れがでているようだ。
でも私は言いたい。
強靭な精神の持ち主でなければ、ミリオネアの妻になるために“起業家”を狙うのは、辞めておいた方がいい。
時刻は24時04分。夫はまだ帰ってこない。
紗代は1人、南麻布の高級マンションで彼の帰りを待ちながらそう思うのだった。
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銀座女の、”ミリオネア男の射止め方”は至ってシンプル・・・?
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この記事へのコメント
その博打に勝ったら、次はその旦那の浮気との戦い
人生ってきびしいな!
全く幸せじゃないじゃん。