モテ期到来…?
「どこもやってないな…。ウチでやりましょうか」
その言葉を聞いたとき、美和の心臓がドクンと音を立てた。
善斗が勧めてくれたパソコンを買ったは良いが、メールやオフィスなどを設定するための場所がなかったのだ。
普段なら電源が利用できるカフェなどで済ませることができたかもしれないが、そういった場所は当時、軒並み営業を自粛していた。
「遠くないので、もしよかったら、なんですけど…」
「いえ、行きます!」
意気込んで返事をしたのには、ちょっとだけ下心もあった。憧れの人の部屋に招き入れてもらえるのならば、淡い期待を持つのも致し方ないだろう。
―結局、何もなかったけど。
美和が期待していたあんなことやそんなことはなかったが、収穫はあった。
それは彼の部屋の全容や、眼鏡を外してリラックスした姿だ。初めて見る眼鏡を外した顔に、美和はドキドキした。
その姿は「会社でもコンタクトにしたらいいのに」と思うくらい格好良かったのだ。
しかしそれ以上に、コンタクトにした姿を自分だけが知っていると思うと、美和としては独り占めしたい気もするのだった。
それから2人は、ちょこちょこ連絡を取るようになり、会社でも雑談する機会が格段に増えている。
―このままうまくいけば…。
美和は、そう願わずにはいられなかった。
―はあ。青木さん、今日も素敵だったなぁ。
善斗とエレベーターホールで雑談した後、自分のデスクに戻ってからも、彼の部屋での出来事を反芻したい気持ちに駆られたが、グッと我慢した。
そんなことをしている暇はない。すぐに仕事に取り掛からなければならないのだ。
一時停滞していた経済が動き始めたことによって、美和の会社が属する業界も再び忙しくなり始めている。
美和自身もしばらくは仕事に追われる日々が続きそうだった。善斗とのあれこれを考える時間は楽しいが、それだけというわけにもいかない。
だが、忙しいのは美和だけではない。
仕事を始めてから30分もすると、まだ始業には時間があるにもかかわらず半分くらいの机は埋まってくる。
「おはよう、大井。早速で悪いんだけど、先週のアレどうなった?」
同期の赤石 篤哉が、アイスコーヒーを片手に慌ただしく美和のところまでくると、そう聞いてきた。
「送っといた。あとは部長の承認待ち」
「さすが!ありがとう。いつも助かるよ。良かったらそれ飲んで」
プリンターが出力した紙束を抱え、オフィスを出ていこうとする彼が指差したのは、いつの間にか美和の机に置かれていたアイスコーヒーだった。
なんだか自分の仕事が認められたようで、悪くない気分だ。そういえば、篤哉も最近やたらと積極的に話しかけてくる気がする。
◆
―よし、そろそろ帰ろうかな。
ようやく業務がひと段落してきた。日が長くなってきたので時間の感覚が狂いそうになるが、終業時間はとっくに過ぎていた。
美和が帰り支度をしていた、その時である。
『明後日、あいてる?』
篤哉からのそんなメッセージが届いたのは。
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憧れの人との甘い将来を思い描く美和の元に届いた同期の連絡。そこで美和が直面した衝撃とは
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この記事へのコメント
セキュリティもガバガバそうだし取引したくないわ。
苗字と名前の間にスペースを入れるライターさんのようで…「大井 美和」を読んだ時『お〜い、お茶』と似てるな、と思ってしまった…ごめん。