リモートワークで始まる恋?
「暑い…」
プラットフォームに降り立った美和は、すぐに階段へ向かった。少しでもこの熱気に晒される時間を減らさなければ、と乗り換え先の路線へと急ぐ。
ちょうど電車が来たので滑り込んだが、今年は窓が開いているので、冷房の効きが悪い。
「人、すごい増えたな…」
電車の中を見て、美和は思わずつぶやく。緊急事態宣言が明ける前も不定期に出勤はしていたが、ここまでの人出ではなかった。
これを機に、全面的に自宅勤務に切り替える企業もあるというが、そうではない企業もかなり多いようだ。
気温も高ければ、湿度も高い。その上、マスクもしなければいけないのが辛い。出勤するだけでも化粧が落ちるので、出勤したらまずすることは、メイク直しだ。
だが、しかし。みんな同じことを考えているので、朝の始業時間帯は特に混んでいる。
それを避けようと、美和は緊急事態宣言前よりもかなり早く出勤するようになっていた。
今のところ、“時差出勤”などの制度は美和の部署にはないので、特に早く帰れるわけでもないから、メリットはあまりない。
―まぁでも、悪いことばかりでもないんだけど。
自分のデスクに戻る途中、エレベーターから降りてくる人影に美和は目を向けた。
「おはようございます。大井さん、今日も早いですね」
そう声を掛けてきたのは美和の憧れの人、青木 善斗(よしと)だった。
「青木さんこそ。ほとんど一番乗りじゃないですか」
「皆、なぜか朝遅く来るんですよね。絶対早いほうがいいと思うんですけど」
善斗が所属する部署、アクチュアリーと呼ばれる人たちは緊急事態宣言前から時差出勤が認められている。善斗は、早く来ることを選択している珍しい人間のようだ。
―まぁ、そのおかげでこうしておしゃべりできるわけだし。
美和にとっては好都合であった。
「そういえば、結局あんまり使いませんでしたね。パソコン、せっかく設定したのに」
善斗が、美和に話しかける。
「そうですね。でも、学生時代から使っていた古いやつで、そろそろ買い替えなくちゃと思ってたし、ちょうどよかったです」
美和の会社では、リモートワークに必要なパソコンは自分で用意する必要があった。
会社が用意してくれるものとばかり思っていた美和は最初こそ不満を抱いたが、それが思わぬ好機につながったのだ。
機器関連に弱い美和は、善斗にどんなパソコンを買ったら良いか、設定の仕方などで相談していたのだが…。
「ウチでやりましょうか?」
まさか彼が、こんなことを言って家に上げてくれるなんて。
この記事へのコメント
セキュリティもガバガバそうだし取引したくないわ。
苗字と名前の間にスペースを入れるライターさんのようで…「大井 美和」を読んだ時『お〜い、お茶』と似てるな、と思ってしまった…ごめん。