
スマホの中の私:「これだけじゃ満足できないから…」強欲な25歳OLが隠している“夜の顔”とは
目黒で電車を降りた結花は、足早に自宅マンションを目指す。帰宅した結花は夕食もそこそこに、ドレッサーの前へと座った。
―やっぱり、リップとアイメイクは濃い方が映えるよね。
まるで百貨店のコスメカウンターかと見紛うほどのラインナップの中から、今夜のメイクアイテムを選ぶ。
結花の部屋にズラリと並ぶのは、コスメだけではない。クローゼットの中にはコンサバ系ブランドの最新アイテムがめいっぱい掛けられているのだ。
服や化粧品は、いつだって結花のモチベーションを上げてくれる。だけどそれらを買い漁るには、資金が必要だ。
だからこうして結花は、週に2~3度、バッチリメイクを施してカメラの前に立つ。
結花は仕上げにローラメルシエのチークをサッと頬にのせると、鏡の中の自分に向かって気合いを入れるように、小さくつぶやいた。
「さて、今夜も稼ぐぞ…!」
メイクを終えると、スタンドに取り付けたスマホを、部屋の片隅にセットする。
そしてスマホ用のLEDライトのスイッチを入れた。これを付けると、肌のくすみを飛ばしてキレイに見せてくれるため、結花にとって欠かせないアイテムなのだ。
―さて、始めようかな。
結花はアプリを起動すると、スマホのインカメラに自分の顔を映して、笑顔を作った。
「みんな、こんばんは!今日も来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
結花は、自分以外誰もいない部屋で、縦長の画面に向かって手を振った。画面の向こうでは、姿の見えないファン達がこちらを見て声援を送っている。
そう、結花のもう1つの顔。それは“ネットアイドル”だ。
昼間は女性誌のwebメディアで編集者として働くかたわら、平日の夜は動画配信アプリで密かにネットアイドルとして活動している。
もちろん、本名は一切明かしていない。
結花がネットアイドルをするのは、他でもない「投げ銭」が欲しいから。
ファンから支払われるチップのような存在であるそれは、今や結花の生活には欠かせないものになっている。
実際、結花の全収入の4分の1は投げ銭で得たお金だ。
目黒の家賃15万円のこの部屋も、毎日どれにしようか迷ってしまうほどの服やコスメも、投げ銭あってこそ手に入れられたもの。
―だって、次から次に欲しいものができるんだもん。OLの給料だけじゃ足りないの。
そう自身を正当化して、今日も結花はカメラの前に立っている。それに「アイドル」と言っても、その活動の内容は簡単なものばかりなのだ。
配信中には、ファンからのコメントに答えて会話したり、ときには少し歌ったり、ダンスをしてみたり。
たったそれだけで、視聴者から絶えず「かわいい」と言われ、お金も貰える。こんなに美味しい稼ぎ方はないと結花は思う。
今日もカメラに向かって、笑顔で手を振る。そうして視聴者から注目を集めているこの時間だけは、自分が世界の中心でいられるような気がするのだ。
…しかし今夜だけは、いつもと様子が少し違った。
それは普段通り、配信中のコメントを読み上げていたときのこと。とめどなく流れてくるコメントの1つに、目が留まったのだ。
この記事へのコメント
「ネットアイドルをしただけなのに」
近日公開