およそ1,400万人が暮らす、現代の東京。
そのうちの実に45%が、地方出身者で占められているという。
東京にやってくる理由は、人それぞれ。だが、そこに漠然とした憧れを抱いて上京する者も少なくないだろう。
これは、就職をきっかけに地方から上京した女が、東京での出会いや困難を通して成長していく「社会人デビュー」物語。
大都会・東京は、はたして彼女に何を与えてくれるのか…?
—2018年6月—
ここ数年、就職希望者の選考活動が行われるスタートとして定番となった、6月1日。
北海道にある大学に通う4年生の佐々木美咲も、この時期を緊張しながら待っていた1人だ。
多くの企業が、一斉に採用面接を始めるタイミング。美咲の第一志望の会社も、例に漏れずであった。
そこは、メガベンチャーとして有名な広告代理店である。
―頑張らなきゃ。これが最初で最後のチャンスなんだから。
美咲は、北海道の小樽で生まれ育った。小中高は地元の公立だったし、さらに現在通っている大学も北海道だ。これまで地元を離れたことはほとんどない。
ただし、大学在学中に1年間だけ、スウェーデンに交換留学していたことはあった。
留学中、長期休暇に入ると、一人でヨーロッパ中を旅行した。イギリスやフランスといった王道の国はもちろん、スロベニアやリトアニアなどの国まで旅したのだ。
といっても、時間もお金も限られていたから、せめて必ず「首都」は訪れるようにした。その国を最低限知るために、政治・経済・文化の中心地とも言える首都を見ておきたかったから。
だが、様々な国の首都を見るうちに、ふと我に返ったのである。
―あれ、私そういえば…。自分の国なのに、東京についてあんまり知らない。旅行で何回か行ったことがあるくらいだわ。
これまで美咲は、当然のように大学卒業後も地元に残って就職するのだと思い込んでいた。
―でも人生で1度くらい、地元を離れて東京で生活してみたいなあ…。
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