彼女のウラ世界 Vol.2

突如、姿を消した恋人。残されたインスタアカウントから暴く、女の本性とは

敏郎は、目を見張ってそれぞれの画像を隅々まで確認する。

ーこんな場所、誰と行ったのだろうか。写真には僕以外の男の影は全くないが…。

その一方で、彼女が訪れたであろうレストランの投稿には

【いつも彼氏さんと美味しそうなお店に行っていて、うらやましいです】
【ラブラブですね!】

などと、その写真の奥に誰かいることが前提のコメントが寄せられている。

もちろん、敏郎はそのレストランには行っていないのに。



いてもたってもいられなくなった敏郎は、その投稿のなかでも、自宅からそれほど離れていない高級ホテルのバーラウンジに向かった。

そのバーはホテルのロビーに併設されており、昼間はコーヒーラウンジとして開放感はありながらも落ち着いた雰囲気を醸し出している。

敏郎も過去に女優との打ち合わせで指定されて行ったことがある。そんな気軽さもあった。

敏郎は入店すると、おもむろに店内中央にあるカウンターに座り、髭を蓄えた50代くらいのマスターにブレンドをオーダーした。

マスターは「かしこまりました」と注文を受け入れながらも、デイタイムにわざわざカウンターに座るなんて珍しい、という顔で敏郎を一瞥する。

「ここに、僕の“婚約者”が来たことあるって聞いて。いい雰囲気のバーラウンジだって言っていたものだから、仕事のついでに来たんだ」

言い訳がましさを承知しながら、敏郎は自らマスターにその理由を説明した。

「ありがとうございます。私はバータイムもここに立っているので、お話ししたことあるかもしれませんね」

気さくにほほえむ彼に、手ごたえを感じた敏郎は、この機会を逃さんとばかりに明子の名前を出してみる。

ーどうせ1回限りの来店なんだし、知らないだろう。

ダメ元だったが、藁をもつかみたかった。

しかし、マスターから返ってきたのは驚くべき言葉だった。

「近藤明子さん。存じ上げていますよ。常連さんですから」

「え、常連?」


その証言は、にわかには信じがたいものだった。

「はい。いつもおひとりでいらっしゃっていたかと」

マスターはブレンドコーヒーを淹れながら、ゆっくりと語る。しかし、敏郎は落ち着くことができなかった。

「でも、ひとりで呑みに来るって。彼女には婚約者がいるんですよ。そんな必要あります?」

思わず出た敏郎の言葉に対し、彼は意味ありげな表情で逆に尋ねた。

「お客さん。女性がひとりで呑むのはなぜだと思いますか?」

「寂しいからでしょう。もしくは、ひとりで呑む自分に酔うためとか」

嘲笑気味に答えた敏郎に合わせるように、マスターの口元も緩む。

「一理あるかもしれませんが、単純に呑みたいからですよ。明子さんもそうだったと思います。じっくりお酒の時間を楽しみたい、ただそれだけだったんでしょう。男性も女性も関係ありません」

諭すように語る彼に、敏郎は少々むっとした。

「“女性が”と主語を持ち出したのはそっちだろう」

そんな揚げ足を取ると、彼は「そうでしたね」と申し訳なさそうに謝りながらブレンドを差し出した。

この記事へのコメント

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No Name
高級ホテルでお客様の情報ベラベラ話すマスターもいないし、婚約者の勤め先も分からない事を露呈する男性もおかしい。
2020/06/08 05:2399+返信3件
No Name
マスター、警戒するの遅すぎる!
だいたい個人名出してその人について話す接客業の人、居ないでしょう。
2020/06/08 05:2899+
No Name
バーのマスターにムッとしたって問い詰めたってしょうがないのに、大丈夫か敏郎。。
2020/06/08 05:2181返信2件
No Name
高級ホテルではなくとも、バーのカウンターでの会話の秘密は守られるものですよ。
一人で来店する客には、自分の時間を楽しみたい、また秘密を守れる誰かに話を聞いてほしい、そんな客もいます。
バーのカウンターは、宿り木となり、バーテンダーは、客が話しかけて初めて客の話しに耳を傾けるんです。
私は女ですが、バーへ行くとき、そんな感じでしたね。
癒されて家に帰り、疲れるとバーへ帰っていました。
(あえて「帰る
」と表現します。それが心情に適した表現なので)
2020/06/08 07:4237返信1件
No Name
お相手のことをそこまで知らないのに、婚約までしようって思えたのが凄い。
男性がお花畑で思い込み激しかったのか、女性がこの結婚難の時代にでも結婚したいと思わせる何かがあったのか‥
2020/06/08 05:2520返信2件
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