あなたに会える、その日まで Vol.5

「夫のお母さんが大好き」と語る妊婦が唯一、苦手な相手とは

新しい命をお腹に宿し、赤ちゃんとともに過ごす十月十日。

花冠をつけて、マリア様のようにやわらかく微笑むマタニティーフォトの裏側には、さまざまな物語がある。

たくさんの笑顔と涙に彩られるマタニティーライフ。

あなたに会える、その日まで。

◆これまでのあらすじ

市川優は、独立したばかりのテキスタイルデザイナー。結婚5年目の33歳だ。

不妊治療の末、念願の赤ちゃんを授かるも、早期の切迫流産で入院になってしまう。

ようやく退院すると、実母古いベビーベッドを送りつけて来て…。


優の母親の悦子は、結婚して以来40年、ずっと専業主婦として過ごしてきた。

結婚して家に入るのは当たり前の時代。また父親の勤める国内自動車メーカーは景気の良い時代が続き、比較的裕福でもあった。

長男である5歳上の兄と、長女の優を授かり、子供の成長と教育に情熱を注いできた悦子は、無趣味で友人も少ない。それゆえに過干渉で、見栄っ張りで、優にとっても兄の隆にとっても、少々煩わしいタイプの母親だった。

―たくさん愛情を注いでもらったし、毒親とまでは言わないけど…。

「友人になれるタイプではない」と学生のころから思っていたし、こうして妊娠した後では「理想の母親像ではない」とも思う。

悦子との間に見えない亀裂が入った一番の原因は、優が私立中学からエスカレーター式で進学するはずだった女子大を蹴って、美大を目指したことだろう。

自分の娘が名門お嬢様大学に通う日を夢見て、小学生のころから塾通いや習い事をさせていたのに。悦子はそう涙ながらに語り、裏切られた、と叫んだ。

その日のことを思い出すと、今でも胸が痛む。母の意見に従うつもりは一切なかったし、選択には間違いなかったが、どんな形であれ母を傷つけことはたしかだ。

だが、そんな経験があったからか、今の優ははっきりとした信念を持っていた。

―この子の人生は、この子のもの。

お腹に赤ちゃんを宿した日から、優はまるで自分に言い聞かせるように、お腹に語りかけている。

先ほど悦子と噛み合わない会話をしたせいか、お腹が少し張っているような気がした。しかし、LINEの通知を告げるスマホを見た途端、優の心がホッと安らぐ。

突然のLINEの送り主。

それは、大好きな姑・亜沙子からだったのだ。

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