「当然でしょ!聡だって、30過ぎの私と付き合ってるんだから、そのつもりでしょ?」
惨めな気持ちになり涙が溢れてくる。
少しの沈黙の後、聡は口を開いた。
「…あれ、言ってなかったっけ?俺、結婚とか興味ないんだよ」
「えっ?」
彼の言っている意味が理解できず、ぽかん、としている叶実をよそに聡は続ける。
「でもさ、こうやって楽しく2人でいられるんだからいいじゃん。それでよくない?」
叶実は詰め寄るが、聡は面倒くさそうに「結婚願望がない」の一点張りだった。
結局、その後2人の雰囲気は険悪になり、「私と結婚してくれないなら別れる!」と叶実が言い出し別れ話になってしまった。
◆
ー半年後ー
3月の3連休の初日。
「叶実、お誕生日おめでとう!」
今日で、33歳になってしまった。
母親なりに気を利かせてくれたのか、ケーキのメッセージプレートに年齢は書かれていない。
「ありがとう!」
笑顔で答えるものの、こうしてまだ実家暮らしの独身でいることが、なんだか申し訳なく感じる。
それに、今年は一緒にお祝いしてくれる彼もいない。
結局、聡とはあれっきり。
別れを切り出したらプロポーズをしてくれるかと思って、最後の切り札を出したつもりだったが、結局そのまま別れることになってしまったのだ。
今日は一日中、自分の部屋に閉じこもりたい気分で、ケーキを食べると自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
“Netflixを見ては寝落ちする”を何度か繰り返し、それも飽きると、何となくFacebookを開く。
すると、フォローを外せないままの聡の近況が目に飛び込んできた。
“結婚しました”という文字がデカデカと表示さている。
ーちょっ…と…!!…待ってっっ…!!
あまりの衝撃で、ベッドの上で思わず正座する。そして、海外の科学捜査ドラマによく出てくるネット捜査官ばりに、ものすごい速さで指を動かし、相手を特定する。
ー24歳…って…。そんな若い子と…?!
コメント欄を見ると、「出会って3ヵ月で結婚なんて運命だね」という文字を目にする。
ーえ?それって、私と別れて3ヵ月後に出会って、たった3ヵ月で結婚したってこと?!
この半年、自分は泣いて暮らし、目元に小じわを沢山作っていたというのに。あれだけ結婚願望がないと豪語していた聡は、若い女を捕まえていたなんて…、あまりの衝撃で涙すら出ない。
ーもう泣いている場合じゃないわ…!
ベッドから飛び起き、化粧台の前に座ると、先日購入したPOLAのリンクルショットを目元に塗り込む。それが終わるとスマホを手に取り、婚活アプリをインストールした。
翌朝、婚活アプリを開き、自分に付いた『いいね!』の数と、『会ってみたい』と自分から申し込みをした男性達からの返事を確認する。
ーえっ…嘘でしょ?
『いいね!』は、たった2人からだけで、しかも、自分よりも随分年上のおじさんからだった。さらに、“会ってみたい”の申し込みをした相手からは全員断られている…。
ーこんなの、嘘!私の市場価値ってこんなに低くなってるの??
20代の頃はデート相手が途切れたことがなく、今でも体型とお肌には気を使っているから、見た目には自信があるのに。
叶実は、慌ててグーグルを立ち上げ、適当に婚活パーティーを探し、恵比寿で開かれる婚活パーティーを見つけ、さっそく申し込んだ。
◆
ーはぁ…。私、結婚できるのかな…。
ジミーチュウのかわいらしいパンプスに、白いワンピースで気合を入れて臨んだ婚活パーティーは、散々な結果だった…。
とてつもない敗北感にかられながら、トボトボと恵比寿駅に向かって歩いていると、恋に効くと噂の神社の前に占いの出店が出ていた。
ーマダム・カミーリア…?恋愛占い…?
『弱っている時に、こんな怪しげなところへ行っちゃダメ!』
心の中で呟き、通り過ぎようとすると「あなた、結婚したいんでしょ?」という声が聞こえてきた。
声のするほうに目をやると、そこには、白のツイードスーツに、バイカラーのパンプスを合わせた全身シャネルのコーディネートに、黒色のベールで顔を隠した年齢不詳の女性が座っていた。
「あなた、3ヵ月で結婚させてあげるわよ!」
その女性の自信たっぷりな物言いに、思わずピタリと足を止めてしまう叶実だった。
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藁をも掴む思いで叶実が飛びついた、マダム・カミーリアの「3ヵ月で結婚する方法」とは…
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