ーこんなものに手を出すなんて、相当追い詰められているのね…。
叶実は、適当に相槌をうちながら、週末開かれる友人の結婚式で何を着ようかと考えていた。
その週末、叶実は結婚式に参列するため、代官山の結婚式場にいた。
モスグリーンの光沢があるドレスに、母親から借りたシャネルのハンドバッグを合わせた叶実のスタイルは、モダンな雰囲気の会場によく映えている。
花嫁は、大学時代からの仲良し4人組の1人で、叶実たちはよく遊び、数えきれないほどの食事会もしてきた。その甲斐あってか、友人たちは、1人また1人と結婚を決めていった。
そして今日で、独身なのは叶実だけになってしまったのだ。
披露宴で同じテーブルに座る仲の良い友人たちは、子どもや結婚生活の話で盛り上がっている。しかし、叶実が話に入れないでいるのに気づくと、「恋人同士の時期が1番楽しいよ!」とか、「叶実は、仕事も頑張ってるしカッコいいよ!」と慌ててフォローしてくる。
披露宴が終わり、それぞれが家族の元に帰り1人になると、急に自分だけが独身であることに寂しさを覚えた。
ー聡に会いたい…。
こんな時は、彼氏に会ってギューッと抱きしめてもらうに限る。バッグからスマホを取り出し、彼にLINEする。『今から家行っていい?』と尋ねると、すぐに既読になり、『いいよ』と返信がきた。
代官山からタクシーで聡の住む駒沢まで向かう。
ーいつプロポーズしてくれるのかな…。
結婚話を全くしてこない聡のことを考えると、不安が心の中を支配し始める。会ったら探りを入れてみようと思いながら、タクシーを降りる。
玄関のドアを開けると、突然にも関わらず、聡はいつものように優しく出迎えてくれた。
聡の部屋に上がりソファーに腰掛けると、叶実は、早速それとなく“結婚したいアピール”を開始した。
「あのね、今日、大学時代の友達の結婚式に行ってきたんだけど、素敵だったよ」
「へー」
表情は優しいが、そっけない返事の聡。
ーあれ…?伝わってない?
「友達は、もうみんな結婚してて。独身なのは私だけになっちゃったよ…」
聡は、またもや「へぇー」と言いながら、コーヒーを淹れにキッチンに行ってしまう。
ーもしかして…、この話題避けてる?
聡が何を考えているのか分からなくなり、不安を通り越して怒りが湧いてくる。
「どうしたの?そんな怖い顔して」
キッチンから戻ってきた聡は、コーヒーカップを持ちながら不思議そうに尋ねる。
「言わないと分からない…?」
「え?何が?」
本当に分からない、という表情をする聡。
「私、あと半年で33歳になるんだよ!言わなくても分かるでしょ!?」
「え…まさか。叶実、…俺と結婚したいの?」
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