2020.02.01
妻のベール Vol.2箱の事情
席に着いた貴也は、目の前にいる美香をまじまじと見つめた。
−なんか変だ…。
まず、店員への所作がやけに慣れている。
これまでの美香は、どこか店員にも遠慮がちだった。何を頼むにもあまりに申し訳なさそうにするので、店員もやりにくいだろうなと思っていたくらいだ。
その美香が、入店するなり「コート」と言って、若干ぶっきらぼうな口ぶりでコートを預けていた。その態度は、どちらかといえば横柄さを感じさせるほどだったのだ。
−美香って外だとこんな感じだったか…?まあ今のところ、マナー違反とまではいかないから大丈夫だよな…?俺の気にしすぎか…。
貴也はそう自分に言い聞かせていた。だが、さらに違和感を覚えたのはオーダーの時だ。
「美香の好きなもの食べて。任せるよ」
すると彼女は、当然のように最も高いディナーコースをお願いしただけでなく、前菜もメインも、全て一番良いお値段のもの(追加料金がかかるもの)ばかりを選んでいく。
ケチケチ言うつもりはないが、そのチョイスには少々面を食らった。かつての控えめな美香だったら、ありえなかったからだ。
極め付けは、ワインリストをめくりながら彼女が発した言葉だった。
「わあ、モンラッシェのグラン・クリュがある。あ、赤はシャトーパルメが良いなあ」
ワインなど詳しくなかったはずの美香の口から、高級ワインの銘柄がごく自然に出てきたのである。
貴也もワインには全く詳しくはないため、いつもだったらこういう場面では店員に任せていた。それは美香も同じだったはずだ。
「あのさ…美香。いつからワインに詳しくなったんだ?」
貴也は、おそるおそる妻に尋ねる。すると美香は、メニューから顔も上げずに即答した。
「んー、ソムリエやってる友達に教えてもらったの」
そのとき貴也は、美香は嘘をついたか、もしくは後ろめたいことがあるのだと、直感的に思った。
なんとなく、それは少しの違和感だったが、今確かに美香は何かに焦っているように見えた。まるで、隠していた秘密を見られてしまったときのような。
昔から、美香の交友関係はそう広くない。学生時代からの付き合いのため、貴也は美香の友人のほとんどを知っている。
しかし、ソムリエをやっている友人の存在など聞いたことがないのだ。
そのタイミングでちょうど料理が運ばれてきたため、ワインについての会話はそれきりとなったが、違和感はずっと喉元に残ったままであった。
「美味しかったねー」
帰宅したのは、22時を回った頃であった。
「そうだな」
違和感はいまだに残っているが、美香が楽しそうにしていたのだから良しとしよう、と思っていた。
「私、先にお風呂入ってもいい?」
「ああ、どうぞ」
最近は、出かけている間でもお風呂を沸かしたりすることができるから便利だ。
経営者として、流行の技術には敏感でないといけないという思いから、貴也は新しい物はとりあえず試すことにしている。IoTを使ったお風呂のボタン操作も、そのうちの一つである。
そんなことをぼんやり考えていると、バスルームから声が聞こえる。
「ねー、パジャマ置いてきちゃったの。ごめん、取って来てくれないー?」
「はーい」
やれやれと腰を上げ、ベッドルームに向かう。ベッドサイドのチェストからパジャマを取って、部屋を出ようとしたそのとき、ウォークインクローゼットが少しだけ開いていることに気づいた。
ここは美香専用のクローゼットで、貴也が使うことはない。貴也は、書斎にある自分用のクローゼットを使っているのだ。
中途半端に開いているのが気になって、クローゼットのドアを閉めようとした瞬間、何かが引っかかった。
なにやら箱のようだ。それを取り出そうとすると、中から大量の箱が溢れて崩れ落ちてきた。
「わっ…!なんだ、この箱…?」
その大量の箱は、全て同じブランドのもので、“La Perla”と書いてある。
−らぺるら、か…? 聞いたことないな。
あまりにも大量にある、この箱が気になる。妻は一体何に使っているのだろうか。
何の気なしにスマートフォンで検索した貴也は、画面を見て固まった。
ラペルラとは…下着であった。しかも、かなり高価で、セクシーなものが多い。
そして、画面をスクロールしてカタログを見ているうちに、不都合な事実に気づいてしまったのだ。
−美香がこんな下着をつけてるの、見たことないぞ…?どういうことだ?
貴也の心臓が、ドクンと跳ね上がった。
▶︎Next:2月8日 土曜更新予定
妻のセクシーな下着を発見した貴也。疑心暗鬼になった貴也がとった行動とは…?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
配偶者のこと、付き合いが長いから、今までずっとこうだったから、こうなはず、って決めつけるのは危険な気がする。
私も妻の下着ブランドは知らない笑
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