
記憶無き罪。愛する存在を自ら葬り、少年は羽化する。
◆裏山
…ジジッ ジジジジジジッ ジジジッ
蟲の音がする。
少年の瞳に、涙が溢れる。
足元に、躰が横たわっている。
冷たい汗が背中をつたう。
真っ白な膝を見て少年は思う。
ー 昔、テレビの上にあったお正月の鏡餅みたいだ。
「恵一、すこし傷んできてるな」
お父さんがすぐに割って焼いてくれた。
恵一は覗きこむように顔を寄せる。
傷んできてる。すぐに割って、焼かなきゃ。
◆病院
等間隔で壁にへばりついた警護官が見守る病院の廊下を、工藤が進む。
橋上恵一の部屋の前で座る男に、静寂とは不釣り合いな大声で言う。
「外せ。上に話はしてある」
「しかし・・・」
「職務命令違反になるぞ!名前は?」
警護官がゆっくりと席を立つ。
躊躇わずに、工藤が扉を開ける。
…バタン
扉を閉めると、部屋が真っ暗な闇に包まれる。
工藤はその場から動かずに、目が慣れるのを待つ。
部屋は、住民の空気を纏う。
工藤はそこに誰がいるかを感じ取ろうとする。
ーどの人格だ?
ここにいるのは・・・
.
ー 期待したやつではないな。
工藤が微かにほほ笑む。
「工藤だ。話を聞きにきた」.....
この記事へのコメント
工藤、かっこよすぎる!!!
最近東カレご無沙汰しておりましたが、これを読むために戻って参りました。
続きありがとうございます!!!