絵麻が2週間で心変わりをした理由
「絵麻、俺と結婚しよう」
明久がそう言って、バラの花束を差し出したとき。
夢にまでみたシチュエーションを目の前にして、私は感情の昂りを抑えられなかった。鼓動が早まり、自然と目頭が熱くなる。
2年前、友人の紹介で明久と出会い交際を始めた当初、彼はとにかく仕事ばかりしていた。
明久は30歳のときに広告代理店を辞めて独立し、マーケティング会社を立ち上げた。今でこそ会社も軌道に乗り、信頼できる部下もできたようだが、当時は何もかもを一人で抱え、昼夜を問わず働いていた。
忙しい彼と、なかなか会えないのは仕方がない。
しかし待ちに待った久しぶりのデートで心ここにあらずの顔をされたり、時にはイライラをぶつけられることさえあり、やり場のない思いを抱えて一人涙した夜もある。
それでも明久が好きだから、彼を信じ、応援してきた。一途な想いと献身的な努力が今、報われたのだ。
「明久…嬉しい、ありがとう」
もっと、この感動的な瞬間を分かち合いたいのに、月並みな言葉しか出てこない自分が悔しい。唇を震わせながら、そう呟くのがやっとだった。
涙をためて明久を見つめる。しかし彼は、ふっと視線をそらした。
「…絵麻、結婚するにあたり一つだけ頼みがあるんだ」
突然、歯切れの悪くなった明久。
私が怪訝な顔を向けた、その次の瞬間。彼は30秒前までの感動をぶち壊す、衝撃的な言葉を口にしたのだ。