アリサの配属された新たな部署は、丸の内本店の営業8課だった。
初めて管理職となるアリサは、この本店内最下位の8課を担当させられることになったのだ。
営業担当者は常に数字を競わされ、管理職は課の成績を競わされている。
アリサが前任課長との引き継ぎをするため、初めて丸の内本店を訪れたのは、期末の1週間前だった。他の課は期末までの数字をつめており、戦々恐々としている。
しかし、その中で8課だけが場違いなほど穏やかな雰囲気だった。
その日の夜22時、課員が早々に帰宅した静かなオフィス。アリサと前任の課長は、顧客カルテを見ながら引き継ぎをしていた。
前任の課長は40代の男性で、理由は知らないが赴任してたった2年で札幌支店に異動することになった。若干くたびれた雰囲気はあるものの、どこか吹っ切れた様な清々しさも感じさせる。
「気になっていたんですけど、なんで8課だけ予算が大幅に少ないんですか?」
アリサは、この事実が不思議で仕方なかったのだ。
「ああ。去年までは結構出来る奴がこの課にいたんだけど、彼が1課に異動しちゃって。そいつが割といいお客さんを担当してたからさ。それからうちの課はずっと苦しい状況だよ。まあ、その分予算を下げて貰ってるんだけど・・・」
―エース不在の課なのね・・・。まあ、でも、そんなのはよくある事だし、想定の範囲内よ。
前任課長は、さらに脅すような言い方で続ける。
「その上、他のメンバーもなかなかキツイからねー。センスないのに目標だけは高い奴とか、そもそも全然仕事する気がない女子とか・・・はっきり言ってお前らなんか一生仕事できねーよ!って、毎日思ってたよ」
―課員全員が仕事が出来ないというなら、それは課長であるあなたの責任なのでは・・・?
確かにこれまでも、煮ても焼いても仕事が出来ない人をたくさん見てきた。会社なんて蓋を開けてみれば、8割方は仕事が出来ない人で構成されているはず。
でも、上司との出会いがきっかけで、見違える様に仕事が出来る様になる人もいるはずだ。
―だって、私自身がそうだったから。この課だって、私の力でなんとかしてみせるわ。
「野村さん、内心では私なら大丈夫と思ってるでしょ?でもね、なかなか苦労すると思うよ~。この課」
意味深な笑みを浮かべてまるで「こちらの苦労をお察しします」とでも言いたげに、同情の眼差しで笑いかけてくる。
アリサは、この時まだ知らなかった。営業8課で今後待ち受けている困難を・・・。
そして、プライベートの充実は更に困難を極めていくのだった。
▶︎Next:11月29日 金曜更新予定
仕事の出来ない8課のメンバー達と対決。そして、アリサのワークライフバランスの行方は?
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