2019.10.21
SPECIAL TALK Vol.61名店のゴミ箱漁りも経験。すべては独立のために
金丸:住み込みでの修業はどうでしたか?
辻口:厳しかったですよ。ただ、厳しいから周りのみんなが1ヶ月くらいで辞めていく。だから結構すぐ上になれました(笑)。
金丸:やっぱり厳しい環境は、決して悪くない(笑)。
辻口:まともに休みもありませんでしたけど、最初から独立したいという思いが強かったので、その道を模索していましたね。たとえば新宿アルタの横にある果物屋さんが、フルーツを串に刺して売っているのを見て、「今ちょうど教わっているロールケーキを串で出したら、売れるんじゃないか」と考えたり。
金丸:なんだかいけそうですが、何かを始めようにも資金が必要ですからね。
辻口:そうなんです。だからすぐ起業するのではなく、まずは技術を身につけようと思い、日本チャンピオンを目指すことにしました。
金丸:「独立して、いずれはチャンピオンになるんだ」ではなく、まずチャンピオンを目指すのがすごい。
辻口:自己資金はないし、資金を出してくれるようなコネもない。だったら、メディアを自分に振り向かせることで、僕に投資してくれる人を探そうと思ったんです。それが独立のための最短ルートだと。
金丸:辻口さんは戦略的でありながら、すごく大胆ですね。
辻口:修業の甲斐あって、23歳のときに全国洋菓子技術コンクールで優勝し、その副賞で初めてパリを訪ねました。そこで本場のお菓子にふれ、日本のお菓子の技術の低さを目の当たりにして。フランスのお菓子は見た目も素晴らしいけど、それ以上に食べて美味しくなければ意味がない。素材をしっかり生かすフランス菓子に、すっかり心を奪われました。
金丸:ちょっと展開が早過ぎるので、じっくり聞かせてください(笑)。そもそも、そのコンクールには何人くらいがエントリーするんですか?
辻口:2,000人くらいです。
金丸:そのなかで1位。しかも修業を始めたのは18歳で、それから5年で優勝。これって、たとえ才能があったとしても、並大抵の努力では実現できませんよね。しかも、大泉学園のケーキ屋はとても忙しかった。そのなかで、どうやって技術を磨いていったのですか?
辻口:基本的な作り方は教えてもらいましたが、そこからはほぼ独学です。当時はスマホも何もないので、本屋でレシピを立ち読みして覚え、外でメモって。自分で材料を仕入れてお店の仕事が終わったあとに作り、朝、一緒に働いている先輩たちに食べてもらって感想を聞いていました。
金丸:メニューとして採用されたことはあったんですか?
辻口:採用されたものもあったし、店では出せないと言われたものもあります。あとは、美味しいケーキ屋に食べに行ったり、人気のあるお店のゴミ箱を漁ったりしていましたね。
金丸:ゴミ箱を!? それはまたどうして?
辻口:どんな材料を使っているのか知りたかったんです。人気のお店は、バターにしても小麦粉にしてもアーモンドにしても、やっぱりいい素材を使っていました。これまで見たことがない材料を見つけたら、業者からサンプルをもらって試作を繰り返す、ということをしていましたね。
金丸:優勝しないと道が開けないと感じていたからこそ、そこまで徹底してできたんでしょうね。
大会の好成績を支えたのは、分析し数値化するというアイデア
辻口:初優勝したあとは6年くらい、いろんな大会に出続けました。そして28歳のとき、パティシエの世界大会である「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で優勝し、ようやく世界一に。
金丸:すごいですね。なぜ、そんなに次々と優勝できたのでしょう?
辻口:それは審査員たちがどのような作品を望んでいるのか、どんなものが食べたいのかを、過去の審査員のコメントをもとに分析してきたことがあると思います。つまり、僕は自分の満足よりも、審査員に選ばれることを優先したんです。
金丸:辻口さんのお話を聞いていると、パティシエへの先入観がどんどん覆されていきます。でも、非常に合理的ですよね。審査員に選ばれないと、自分がどんなにいいと思っていても、結局優勝できません。審査員たちを徹底的にマーケティングしたんですね。
辻口:はい。分析をもとに来年やその先のトレンドがどうなっているのかを読みながら、クリアすべきポイントを明確にしていきました。たとえば「味はいいけど、ブルーが入っているのが見た目としてよろしくない」というコメントがあれば、自分の作品には青色を使わないようにしたり、濃く焼いたほうが美味しく感じるというコメントがあれば、焼き目をしっかりつけたりとか。
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