呪われた家 Vol.1

呪われた家:玉の輿に乗った26歳・新妻。彼女が恐怖に陥った、夫の実家での“しきたり其の一”とは

―結婚―

それは、愛し合う男女が二人で新しい家庭を築くこと。

だがその儚い幻想が、見事に打ち砕かれたら…?

女は生まれ育った家を、それまでの人生を捨て、嫁ぎ先に全てを捧げる。結婚と同時に“家”という呪縛が待ち受けているのだ。

奇妙な風習、監視の目、しきたり、そして義家族たちの薄笑い…。

夜な夜な響くその声は、幸せでいっぱいだったはずの新妻の心を蝕んでゆく。

―逃ゲヨウトシテモ無駄ダ…


「披露宴の式場、うちの伝統でここって決まってるんだけど良いかな?」

帝国ホテルの『ランデブーラウンジ』のバーで、ゆっくりとカクテルを楽しんでいたとき。

沙織が不意に聞いたその言葉が、思えばそれがプロポーズだった。

「どういう意味?まさかプロポーズのつもりなの?」

「ああ。えっと、ごめん。段取りを間違えたな」

宗次郎は、バツが悪そうに頭を掻いた。沙織は思わずため息混じりに失笑する。同時にその不器用さを愛おしくすら感じるのだ。

「もちろん、この後プロポーズの本番のために、スイートルームとハリー・ウィンストンのダイヤの婚約指輪を準備してくれてるんでしょ?」

段取りの悪さのお返しに、沙織は愛を込めて少々悪ふざけをしてみる。本来は、高価なものを易々とねだるような女じゃない。当然宗次郎は戸惑いの表情を浮かべた。

「え?…ハリ…?なに?」

―私、この人と家族になるんだ。

誰よりも優しくて、真面目で、不器用で…きっと素敵な夫に、そしていつかは素晴らしい父親になる。

「私のこと、幸せにしてね。絶対だよ」

沙織は独り言のようにポツリと呟いて、その言葉をかみしめた。

26歳の沙織と28歳の宗次郎は、共通の友人の紹介で出会い、付き合い始めて1年。「いつかは…」と思っていたけれど、想像より早いタイミングでそのときは訪れた。

看護師の沙織は、総合病院の小児病棟で働いている。夜勤もある三交代制のシフトは激務だが、まだ若く体力もあり、仕事にやりがいも感じていた。

仕事柄もあってか、看護科時代の友人も同僚も、周りの同世代を見てもいわゆる結婚ラッシュが来る様子はない。

まさか付き合って1年で、しかも26歳で、誕生日でもクリスマスでもないこのタイミングでプロポーズを受けるとは思ってもいなかったが、宗次郎は最愛の恋人だ。断る余地はない。

沙織は、少しずつ幸せを実感し始め、自分と宗次郎の結婚生活を思い描き始めていた。

この記事へのコメント

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No Name
代々姑が着た婚礼衣装を引き継ぐのにどうしてこの未来のお姑さんはドレスに変えられたの??
2019/08/23 05:5199+返信28件
No Name
よかった、看護師さんならいつ離婚しても食べていける。
2019/08/23 06:4499+返信9件
No Name
何だか面白そうな連載始まった!!
2019/08/23 05:0881返信13件
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