2019.07.28
7コ下の恋人 Vol.1あの日から3週間後。
私は、恵比寿にある『和BISTRO 88WANOBA』で、知り合いの仲間を集めた交流会に来ている。
(※こちらの店舗は、現在閉店しております。)
ほんの数日前までは、家と会社の往復以外は一切外出の予定をいれず、部屋でメソメソと泣いてばかりいたし、夜も熟睡できていない。
だけどこのままではさすがにマズイ気がして、ずいぶん前に参加の返事をしていたこの会に、億劫ながらも顔を出すことにしたのだ。
智也からは「ごめん、悪かった。一度ちゃんと話そう」という数件のLINEがあったが、全て答える気にはなれずに無視している。
でも、いつまでも逃げてはいられない。そろそろきちんと話し合わなければ。
そんなことを考えていると、不意に隣にいた青年に話しかけられた。
「あの、名刺交換させていただいても良いですか?」
歳は20代半ばくらい。コットン素材のアンクルパンツにヒジまで捲り上げたリネンのシャツという、爽やかで年相応の装いだ。
「え?あ、はい…」
ボンヤリしていた私は、ハッとして姿勢を正した。
すると青年は、定型の挨拶と共に親しみのある綺麗な笑顔を向け、名刺を差し出した。私も慌てて名刺を鞄から取り出し、彼と交換する。
西村晴人と名乗るその男性は、私の名刺を見るなり嬉しそうな顔を浮かべた。
「僕、御社の社長が書いた起業家へ向けた本、読みました…!アメリカと日本の違いが項目ごとに比較して書かれていて、勉強になりました」
「そうなんですね。あの本は社長が2年以上かけて書いた力作なので、それを聞いたら喜ぶと思いますよ」
社交辞令的に返事をしていると、目の端に、会に来ていた他の女性が履いている赤いソールの靴が映った。
ールブタンだ…。
その瞬間、あの時の光景がフラッシュバックした。
智也の浮気現場を目撃したあの日の、忌まわしい記憶。
謝まりながらも、決して取り繕おうとしない智也。智也を責めずに自分が悪いと、悲劇のヒロインのように振る舞ったあの女の子。
そして、玄関に置いてあった真っ赤なソールのルブタン。
ルブタンは、憧れのブランドでもある。だが、ドレッシーな服を着ない私には合わないからと、いつも見るだけに終わっていた。
一度だけ、大きなプロジェクトを成功させた自分へのご褒美として買ったことがある。でも結局は観賞用で、パーティーはおろか、智也の前でも履いたことがない。
「俺、ルブタンをカッコ良く履いている女性って憧れるんだよな」
昔、彼がそんなことを言っていた。この言葉のせいか、智也の前で履くのは媚びているような気がして恥ずかしくて、どうしても履くことができなかったのだ。
ーあの子は、私みたいにバカなプライドなんてないんだろうな…。私も素直に履けばよかった。もっと、智也の前で素直になればよかった…。
でも、もう遅い。
きっと私はこの先、彼の浮気を許すことはできない。そして彼もまた、そんな私を強引に引き止めるほどの強い愛情を、もう感じてはいないのだろう。
再び自分のことがたまらなく惨めに思えて、やっぱり家にいればよかったと、後悔した。たまたまルブタンを目にしただけなのに、こんなにも様々な感情が沸き起こり、今にも泣き出しそうになる。
すると「山口さん…?」と先ほどの青年に名前を呼ばれ、我に返った。
「あの、実は僕…」
西村晴人が何かを言いかけた時、私の鞄の奥から軽やかなメロディーが流れてきた。
「あ、ごめんなさい」
急いで取り出したスマホの画面には"智也"の字が映し出されている。
ー智也からの電話だ…!
動揺した私は、慌てるあまり、彼からの着信を切ってしまった。
「あの…、電話、大丈夫ですか?」
「あ…うん。大丈夫。また後でかけ直すので…」
何とか取り繕う私を、西村晴人は少し心配そうに見つめる。その視線に居心地の悪さを感じ、すかさず話題を変えた。
「そういえばさっき、何か言おうとしてなかった…?」
「いえ、たいした話ではないですから。それより…」
そう言うと、彼は少し黙り込み、一呼吸置いてから意を決したように言う。
「山口さん。あの…もしよければ、今度ご飯でも行きませんか?」
彼からの突然の誘いに疑問を抱いたものの、少し照れ臭そうに笑う顔に、「なんか、可愛いな…」と感じてしまったのだった。
▶︎NEXT: 8月4日 日曜更新予定
突然、年下の謎の青年に誘われた泉。彼は一体どんな男なのか…?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
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