7コ下の恋人 Vol.1

7コ下の恋人:結婚を誓ったはずの男がハマった、あざとすぎる女。33歳独身女がショックを受けた光景

「え、泉…!?あれ…、なんでここに?」

いつもはスーツをパリッと着こなし、饒舌な会話が持ち味の彼が、裸にボクサーパンツ一丁で、明らかに焦りながら言葉を探している。

先週から出張でアメリカに行っていた私は、最終日のミーティングが急遽キャンセルとなったため、予定より早く帰国した。

せっかく早く帰れたのだからと直接智也の家に向かい、合鍵を使って部屋に入ったのだが…。

「トモ君、どうしたのー?」

智也の後ろで、20代半ばほどの若い女性が、私に気がつかずに甘い声を出す。シャワーを浴びたばかりの彼女は、濡れた髪をタオルで拭いながら下着姿でひょこっと顔をのぞかせた。


玄関に置かれた、赤いソールの華奢なヒールを見た時から、大体の予想はついていた。

「…そちらは?」

こういう時、妙に冷静になってしまうのが私の悪い癖かもしれない。取り乱したり悲しい顔でもできれば、ちょっとは可愛げがあるように見えるのだろうか?

智也は動揺するばかりで、声も出せないようだ。いつまでたっても私の質問に答えない彼に痺れを切らし、女性の方に声をかけた。

「あなたは?」

「え、トモ君…。もしかして、彼女さん…?」

彼女は叱られた幼い子供のように体を小さくし、不安げに智也を見つめる。彼の慌てぶりから悟ったのか、ようやく私の方を見て言った。

「ごめんなさい…、智也さんは何も悪くないんです。私が勝手に智也さんを好きで…。彼女さんには悪いと思いながらも、どうしても諦めきれなくて…」

それだけ言うと、体を小さく震わせながら、今度はヒック、ヒックとすすり泣きを始める。すると、それまで私だけに集中していた智也が、彼女の方を心配そうな顔をして見つめた。

ー何これ…。何なの一体?まるで私が悪者みたい…。

目の前の現実を理解しながらも、どう受け入れて良いのかわからず、ただ質問を続ける。

「ってことは、二人は…そういう関係なの?一体、いつから…?」

心の中ではひどく困惑しているにも関わらず、口から出た声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

智也は観念したのか私をチラリと見ると、下を向きながら申し訳なさそうに「ごめん、泉…」と一言だけ漏らした。

彼の様子から察するに、きっと一晩だけの関係ではないのだろう。

ふと後ろの女性を一瞥すると、先ほどまでか弱く震えていたはずの彼女の口元が、うっすらと微笑んでいる。

シャワーから出たばかりのその顔には、女性にしか分からないほどだが、薄く綺麗に化粧が施されている。しかし、そんなものでは隠しきれない計算高さや気の強さが、はっきりと透けて見えた。

ーあぁ、バカな男…。よりによって、このタイプの女に引っかかるなんて…。

私は覚悟を決めて姿勢を正し、二人で飲もうと買っていたナパのワインを玄関にドンと置いて、こう言った。

「これ、お土産のワイン。二人でどうぞ楽しんで」

吐き捨てるようにそう言うと、気がつけばそのまま智也の家を飛び出していた。

「何これ…。どうして…。誕生日には籍を入れるって言っていたじゃない…」

人気のない道まで来ると、ホッとしたのか、自然と言葉が口からこぼれる。それと同時に、どうしようもなく涙があふれ出ていた。

私は、最愛の恋人に、完全に騙されていたのだ。

こうして、数ヶ月後に幸せの絶頂をむかえるはずだった私の人生は、一転した。34歳の誕生日を目前にして、結婚どころか恋人すら失い、"振り出し"に戻ってしまったのである。

この記事へのコメント

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No Name
出た〜そういうの。
智也もルブタン女も、早い段階で痛い目にあえばいいのに。それに期待!!
2019/07/28 05:3899+返信2件
No Name
彼氏と浮気相手の前で毅然とした態度の主人公は偉い!私だったらルブタンのヒール折ってやる!
2019/07/28 05:4399+返信19件
No Name
良かった。智がクソ最悪だよ。
そんな覚悟でプロポーズするなよって話。
良かったよ。籍入れる前にわかって。
2019/07/28 06:1399+返信2件
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