ロマンスが恋しくて Vol.2

「子ども、産みたい…?」誕生日に絶望感を抱いた独身の女が、“女の本能”で感じた欲求とは

ひなのはスケジュールをすっかり勘違いしていたらしく、月曜提出の重要クライアント向けプレゼン資料に、全く手をつけていない状態だという。

真理子は一気に酔いがさめて、プレゼン資料の構成案やポイントなどを口頭で指示をするが、ひなのは動揺しており話にならない。

ちょうど料理のコースは、最後のデザートが運ばれてきた後だった。結局、食後のコーヒーもそこそこに切り上げ、六本木から赤坂のオフィスまでタクシーを飛ばした。

ーあーあ。せっかくのバースデーランチだったのになあ。デザート、もっとゆっくり味わいたかった…。

真理子は責任感が強く、後輩の面倒見が良いため頼られることが多い。こんな風に休みの日に連絡が来ることもたびたびだ。

ついつい自分が首を突っ込まなくてよいところまで突っ込んでしまい、フォローをして損をする役回りになることもある。


休日のオフィスに到着すると、ひなのがパソコンを開いて懸命に資料作りをしている。偶然、上司の黒田も他の案件で会社に顔を出していた。

「わざわざすみません、オフィスまで来てもらって」

そう言いかけた瞬間、ひなのは食い入るように真理子を見つめる。

「真理子さん、もしかして、デート中でした…?すっごく素敵、いつもと全然雰囲気違いますね」

真理子は、普段は仕事に着ていかない体のラインが綺麗に見えるワンピースに身を包み、いつもまとめている髪をふんわりとおろし、素足にマノロ・ブラニクのヒールを合わせていた。

ただ、今はそれどころではない。自分のミスのことなんてすっかり忘れたかのようにキャピキャピと騒いでいるひなのに呆れつつも、決してきつい口調にならないよう、笑顔で切り返した。

「なに見惚れてるの。そんなことより、仕事終わらせましょ!」

ひなのを促すと、さっさと仕事に取り掛かる。そうしてテキパキと1時間ほどで資料を完成させた。仕事を終わらせ、なんとかピンチをフォローしたのだった。

「真理子さん、そういえば明日誕生日でしたね。そんな時にすみません、このお礼絶対させてくださいね」

結局ほとんどの業務を片付けたのは真理子だったが、ひなのはホッとしたようで晴れ晴れとした表情をしている。

「お礼なんて、いらないわよ」

ふと視線を感じて振り向くと、黒田は感心した顔でこちらを見ていた。

「この会社に入ったときから、山崎さんは本当に面倒見がよくて仕事が早いっていろんな人から聞いてましたけど、噂は本当だった」

整った顔でまじまじと見つめられ、真理子は思わず早口でまくしたてた。

「やだな、だてに社歴、長くないんで!私、この会社の“生き字引”ですから!」

ーしまった…なんで私、上司に向かってこんな自虐的なこと言っちゃってんの…。

「はは、山崎さんって面白い人だな」

黒田は、普段は寡黙だが、休日のオフィスでは屈託のない笑顔を浮かべていた。真っ白な歯が印象的で、後輩たちが素敵と噂しているのもなんだかわかる気がした。



その夜、自宅でシャワーを浴びた後、念入りに肌の手入れをしていた。

一週間後には早川とのデートも控えている。とりたてて早川という男が気になるわけではないが、誰かのために体のケアをする、そんな時間が好きだ。

そして、昼間に恵子が話していた検査の話を思い返していた。

耳が痛くて他人事のように聞き流してしまったが、41歳という年齢が重くのしかかってくる話だった。アンチエイジングの化粧品にたくさんのお金をつぎ込み、エステなんかも行っているが、体内の老化はなかなか止められない。

それが、あの時心の奥深くに感じた痛みだった。

心は昔のまんまなのに、年齢と体だけ一人歩きしているようだ。社会的地位も上になってきて責任の重い仕事もしているけれども、本当の自分はどこかにおいてきぼりにされた気分だった。

その時、突然スマホが鳴った。

「Happy Birtday」のスタンプが一つ。「今日はありがとうございました。お誕生日おめでとうございます」とメッセージが添えられて。

「えっ!?」

それは、上司・黒田からだった。真理子は、メッセージをじっと凝視する。

その瞬間、何かに巻き込まれそうな予感がしたが、自分でも気付かないくらい無意識に、その感情に蓋をした。

恋がしたいと思う一方で、感情が突き動かされそうになると、無意識のうちに回避する。何事もないように淡々と。

オトナの恋は、やっかいなのだ。


▶Next:7月9日 火曜更新予定
誕生日当日、真理子が涙を流したわけとは

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
黒田さん素敵!独身かな?
2019/07/02 05:1199+返信4件
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もう黒田さんで決まりじゃないの?
2019/07/02 06:2799+返信2件
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確かに素敵と褒められてますが、何見惚れてるの?は勘違いかと思いました。。
2019/07/02 06:0285返信24件
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ストーリーとは関係ないけど。
月曜日のプレゼン資料、土曜日の夕方くらいに出来上がるのなら最後のデザート、ゆっくり味わっていってもよかったのでは・・と思った。
あの書きぶりでは日曜日も出ないと間に合わないくらい大変なのかと思ったら1時間ほどでできて拍子抜けしちゃった。
2019/07/02 07:2466返信5件
No Name
"SATCメンバーなんていって4~5人でよく集合していた"…当方34歳ですが、やってたやってたーって懐かしい気持ちになりました!
今は各々のステータスが変わっていき、昔みたいに話も合わなくなり、そもそも会うことも減ったので、映画でのあの4人みたいに、お互い立場が変わっても色々な話ができる関係って素敵だなぁと改めて思いました。
2019/07/02 05:3856返信6件
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