2019.06.28
ハイヒールの戦士 Vol.1
―そろそろ、次のステップに進みたい。
仕事に情熱を捧げ、必死に上を目指していた深山沙織(27)は、ついに昇進への切符を手にする。
勤めているPR会社で、実績が認められ大型案件を任されることになったのだ。
最高のメンバーを揃え、絶対に成功させる。そう意気込んでいた矢先、プロジェクトチームにも不穏な空気が漂い始め、期待のエースであった後輩の様子もおかしいことに気付く。
全ての歯車が狂い始めたその時、沙織が気付いたマネジメントに“一番、大切なこと”とは―。
「ねえ、これ数字が違うわよ。ちゃんと確認したの?昨日出てきた最新の数値にアップデートしてって言ったじゃない」
後輩の菜穂子から手渡されたプレスリリース用の資料を、沙織はため息とともにつき返す。
―もっと出来る子だと思ってたのに…。
今回、初めてリーダーを任された大型プロジェクトに、菜穂子を自分のチームにアサインするよう上司に掛け合ったのは沙織自身だった。
菜穂子は入社2年目だが、実績は十分ある。先月、彼女が手掛けたプロモーションは月間MVPに輝いたほどだ。
他の社員からの信頼も厚く、みんなが口をそろえて「菜穂子は期待のエース」と言っていたのに。
そんな菜穂子に期待して、沙織は彼女をチームメンバーとして引き入れることに決めた。
しかし、どういうわけか、沙織のチームに加わってからというもの、菜穂子らしからぬミスを連発している。
先ほどの資料もそうだし、先週のキックオフミーティングでも存在感は消えていた。彼女に期待を寄せ過ぎていたせいか、そんな菜穂子にきつく注意したのは一度や二度ではない。
―プライベートで何かあったのかしら。
そんなことを思いながらも、もし私情を仕事に持ち込んでいるのだとしたら、それこそ期待外れも良いところだ。
外資系家電メーカーから受託したこの案件で、失敗は絶対に許されない。沙織の今後にもかかわる、重要なプロジェクトなのだ。
沙織は苛立ちながらパソコンの前に向き直る。