先ほどまでの様子とは打って変わって、誠は瞳を輝かせる。
「美希。ラグビー部の同期で日向ってやつがいるんだけど、つい最近6年ぶりに海外赴任から本帰国したんだよ。で、もう1人山本っていう同期と、ゴールデンウィークに家族同士で食事でもどうかって誘われてたんだ。旅行に行くから断ってたんだけど、どう?」
「日向さんと山本さん…、名前は昔からよく聞くよね。大学時代にすごく仲が良かったんだっけ?」
「うん。日向のところも山本のところも、真奈と同い年の8歳の子供がいるんだよ。子供達も仲良くなれるかもしれないだろ?真奈、新しいお友達と、美味しいもの食べに行きたいか〜?」
誠の提案に、真奈もすっかり元気を取り戻して「うん、行きたい!」と答えている。
「よし、じゃあ決まりだな!」
どうにか真奈の機嫌は持ち直したようだ。誠も、真奈に提案が受け入れられたことで気持ちが切り替えられたように見える。
―誠の友達家族かぁ。ちょっと緊張するけど、仲良くなれたらいいな…。
旅行がキャンセルになることは残念だったが、盛り上がる夫と娘の姿に美希はホッと胸を撫で下ろす。
そしてその安堵の中に、ときめきにも似た好奇心が芽生えているのが自分でも分かった。
◆
ウェスティンホテル東京の『ザ・テラス』のビュッフェは、思った以上の賑わいを見せていた。
所狭しと並んだ目にも美しい料理やデザートの数々に、普段武蔵小杉のフードコートくらいにしか行かない真奈はすっかり瞳を輝かせている。
混雑の中、店の入り口であたりを見回していると、奥まった席の方から誠に向かって快活な声が投げかけられた。
「海野!」
声の方へ視線を向けた誠が、弾けるような笑顔で返事をする。
「おお、日向!山本!元気だったか?」
日向家と山本家は、すでに店についていたようだ。長く繋げられたテーブルには大きく手を掲げる2人の男性と、それぞれの妻子らしき女性と子供の姿があった。
空いていた席に腰を下ろすと、男性のうちの1人が美希の方に向き直る。
「どうも、日向達也と言います。ご主人とはK大ラグビー部でご一緒していました」
「あっ、妻の美希と、娘の真奈です!今日はよろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします」
元ラガーマンとは思えない線の細さと、上品な物腰。夫と同期なら38歳ということになるが、整った目鼻立ちは日向達也を実年齢よりもぐっと若く見せていた。
会釈を交わし合っていると、もう一方の男性も会話に参加してきた。
「海野。なんだお前、いい親父やってるみたいだな」
日向達也とはタイプの違う、浅黒く大柄な体つき。話し方もエネルギッシュなこの男が、おそらく山本という友人なのだろう。
「はじめまして。今日はよろしくお願いします」
美希が話しかけると、誠の方を向いていた山本はちらと視線だけを美希に向ける。そして、さも無関心そうに「どうも」とだけ言い放ち、またすぐに誠だけに向かって話を始めた。
―あ…そうよね。友達同士で久しぶりに集まれたんだもん。私の出る幕じゃなかったのかも…。
山本のそっけない態度に、美希は先走ってしまったことを反省する。
久々の再会に盛り上がる男性3人を尻目に、どんな態度で座っていたらいいのか分からない。
緊張で固まった真奈の膝に手を置きながらボンヤリとしていると、夫たちの向こう側から2人の女性がこちらに向かってニッコリと微笑みを投げかけているのに気が付いた。
この記事へのコメント
家族ぐるみで仲良くしたいとか、そんなん片方の都合でしかないしほんとやだ。。
でも、結婚前の片方の友達関係では上手くいかない気がするな。気があうとも限らないし、この夫達みたいに本人だけ盛り上がって周り全てが置いてけぼりにされたりする。
うちも、旦那の友達と集まってコテージ宿泊旅行行ったけど、一人は奥さんは不参加、一人は小さい子供の面倒にかまけててBBQの準備をほぼ一人ですることになって散々だった。なの...続きを見るに楽しかったね!またやろう!と言い出す旦那に殺意覚えたなぁ‥