2019.05.31
家族ぐるみ Vol.13家族でのホテルランチが決まったのは、4月の中頃のこと。
土曜日の夕方、武蔵小杉の自宅マンションで、家族3人のささやかな団欒の時間を過ごしている時だった。
「はい…はい。なるほど。…分かりました。はい、失礼します」
ふいに鳴った会社用ケータイに神妙に対応していた誠の顔が、まるで訃報でも知らされたかのように暗く曇る。そして、電話を切るなり大きなため息をついたかと思うと、誠はドサリと音を立ててソファに倒れこんだ。
「休日に仕事の電話なんて珍しいね。なにかトラブル?」
カウンターキッチンで夕飯の調理をしながら、美希は問いかける。
その声に反応した誠はノソノソと体を起こして座り直すと、うなだれながら声を絞り出した。
「ごめん…。どうしてもクライアントのイベントに同行しなきゃいけなくなって…ゴールデンウィーク、何日か仕事になった」
「えぇ〜!?」
予想していなかった最悪の事態に、美希は思わず悲鳴を漏らしてしまった。
「パパ、今度のお休みお仕事なの?じゃあ、北海道旅行は?」
テレビに夢中になっているように見えた真奈も、誠の方に向き直り悲痛な声を上げる。
「…ごめん、真奈。約束してたけど、旅行は無理だ。本当にごめん!」
学生時代ラグビー部で鍛えた誠の大きな背中が、愛娘の失望を受けて哀れなくらい小さく萎む。
「どうにかならないの?」という言葉が喉元まで出かかったものの、誠と同じ大手不動産会社で働く美希には、その仕事がどうにもならないものであることは理解できた。
夫婦共働きの海野家では、家族旅行に行けるチャンスはそうあるものではない。美希と真奈がガッカリしているのと同じように、誠自身だって意気消沈しているはずだ。
今にも泣き出しそうな家族の顔にいたたまれなくなった美希は、カレーを煮込んでいた鍋の火を止めると真奈の方へと歩み寄った。
「しょうがないよね…パパお仕事なんだもん。真奈、旅行は残念だけど、ゴールデンウィークはママと2人で東京でたくさん遊ぼう!ね?」
フォローの言葉をかけたものの、普段聞き分けの良い真奈は珍しく眉を歪めながら食い下がる。
「ヤダ、ヤダ!どうせ駒沢公園か、ライズかグランツリーに行くだけなんだもん!そんなのいつもと同じだもん!」
黒目がちな真奈の瞳に、じわりと涙が満ちていく。
「いつもと同じじゃつまんないよ…。何か特別なことがしたいよ…」
「真奈…」
真奈の言っていることが、美希にはよく理解できた。
毎日会社に行き、毎日食事を作り、毎週末、近所の公園かモールに行き、溜め込んだ家事をこなす。
毎日同じ日々。毎週同じ過ごし方。繰り返しばかりの、ネタ切れの日々。
美希がそうであるように、真奈も子供ながらに同じような退屈さを感じているのだろう。
―私だって、何か変化が欲しい。この変わらない毎日に刺激を与えてくれるような、新鮮な変化が…。
密かに抱いていたそんな思いを噛みしめつつ、美希は落ち込む真奈の肩をさする。その時、ソファで肩を落としていた誠がボソリと「…そうだ」と呟いた。
「なあ、真奈。パパのお友達の家族と会ってみないか?」
家族ぐるみで仲良くしたいとか、そんなん片方の都合でしかないしほんとやだ。。
でも、結婚前の片方の友達関係では上手くいかない気がするな。気があうとも限らないし、この夫達みたいに本人だけ盛り上がって周り全てが置いてけぼりにされたりする。
うちも、旦那の友達と集まってコテージ宿泊旅行行ったけど、一人は奥さんは不参加、一人は小さい子供の面倒にかまけててBBQの準備をほぼ一人ですることになって散々だった。なの...続きを見るに楽しかったね!またやろう!と言い出す旦那に殺意覚えたなぁ‥
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