シュガー&ソルト Vol.6

「私は、“何者”かになれる…?」25歳派遣OLを救った、エリート弁護士の行動

華やかな結婚パーティー


結婚パーティーは、表参道で行われた。

百合は立食式のこじんまりとした会にする、と言っていたものの到着してみると華やかな人たちがグラス片手にひしめき合っていた。職場の人も呼ばれているが、きちんと交流したことのある人は誰もいない。


「菜々子ちゃん」

行く当てを探していると、百合が声をかけてくれた。ほっと胸をなでおろす。

“こっちこっち”と手招きされ向かうと、百合は夫の湊と、湊の友人2人と一緒にいた。湊は身長が高く、細身だが鍛えているような体格である。広告代理店を目指していた大学時代、OB訪問で会った人たちは”ギラギラ”という言葉がぴったりだったが、彼には不思議と落ち着きがあった。

「佐藤菜々子ちゃん。会社の後輩で、私と同じ福岡出身なの」

百合が3人に向かって菜々子を紹介すると、湊の友人の1人が「福岡は美人が多いね」と言って場を和ませ、その流れで自己紹介をしてくれた。代理店の同僚らしく場を盛り上げるのが上手で、「よろしくね」と言われた時には親近感さえ覚えてしまった。

次に、湊たちから「マサ」と呼ばれている男が名乗り始める。

「汐田正樹です」

他の2人とはまた違った、聡明さを感じさせる静かなトーンの話し方だった。しかし菜々子に引っかかったのはその苗字だ。

ー”しおた”……

ミキが一瞬、頭をよぎる。

「2人とは高校の同級生で、僕は今弁護士をしています。よろしくお願いします」

丁寧に話す彼と目が合う。その名前に、どきっとした余韻を残したまま会釈をした。

自己紹介を終えると百合と湊は別のグループへ抜けたが、菜々子は先ほどの湊の友人2人を含めた男女8人ほどのグループに落ち着き、会話を楽しんでいた。

会も終わりを迎える頃、そのうちの1人が「俺、この辺に住んでいるんだ」と話し始める。続くように、俺は六本木、私は赤坂、恵比寿……とそれぞれに住まいを言うような流れができ始めた。

もうすぐ自分の番が回ってきてしまう、そう思った時ー。

「僕は千代田線沿いです」

菜々子の不安を断ち切るように、正樹がすっと答える。「こいつ、秘密主義だから」と代理店の彼が言った。菜々子ちゃんは?と聞かれ、とっさに答える。

「私も千代田線です」

正樹ともう一度目が合った。



会場を後にし、正樹と2人で表参道駅から電車に乗り込む。

「住んでるところって言いたくない人もいますよね」

正樹が周りを気遣って曖昧に答えたことに、はっきりと気付いた。きっとそれは、プライバシーを守りたい人への気遣いであって、都内に住む余裕がないことを隠したい菜々子のような人のためではないだろう。

「汐田さん。あの……、私、松戸なので、千代田線というより常磐線なんです」

深刻そうな菜々子の様子に、正樹は虚を突かれた表情を見せ、それから笑った。

「佐藤さんって面白いね」

ずっと敬語を崩さなかった正樹から、思わず漏れた本音。菜々子もふと心が緩む。

常磐線直通の千代田線の電車はあっという間に、正樹の職場がある大手町に着いた。

「これから仕事しに戻らないといけなくて」

立ち上がる正樹に、ふと寂しさを感じる。

ーもう会うこともないんだろうな……。

エリート弁護士を前に、次につなげる一言を言いだす勇気が菜々子にはなかった。

またどこかで、と言おうとすると正樹は名刺を取り出した。裏にさっとLINEのIDを書き込む。

「よかったら飲みにでも行きましょう」

敬語に戻った正樹は名刺を差し出し、ホームに降りていく。菜々子は一瞬の出来事に戸惑いながらも、名刺を持ったまま、彼が人混みに消えていくのを見つめていた。


▶︎Next : 5月21日 火曜更新予定
”会社を辞める”ハイスペ彼氏の突然の宣言にミキがとった行動とは?



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