30代カップルの、同棲。
好きな人と生活を共にし、仕事もうまくいっているはずなのに、なぜか心は満たされていない…。
外資系メーカー勤務の藤崎俊(35)は、最近そんな感情に囚われていた。
同棲2年目の麻実(32)とは、喧嘩こそしないものの、週末は別々に過ごすことが増え、最後に二人で出かけたのがいつだったのかも思い出せない。
そんな“倦怠期”に陥りつつあった、カップルを救った出来事とは?
駿:「今の関係に不満があるわけじゃないけれど。」
—もうすぐ、誕生日か…。
同棲して2年目の恋人・麻美の誕生日が近づいていた。
しかし、イベントのたびにプレゼントをしているといい加減ネタも尽きる。財布、バッグ、時計、コート。思いつくものは全てプレゼント済みだった。
「結婚を前提に」とスタートした同棲生活だったが、今の自由な生活が合っているせいか、それを言い出すキッカケを掴めずに日々は過ぎていく。
それに、最近ではデートどころか、週末さえ別々に過ごすことも増えていた。今日も麻美はさっさと身支度を整えて、出かける準備をしている。彼女は今、ジムでのトレーニングにハマっているらしい。
「今日もジム?表参道の?」
「ううん、今日は中目黒のパーソナルトレーニング。…この前言ったじゃない。」
玄関から少しだけ不機嫌そうな返事が聞こえると、すぐに「じゃあ、行ってくるね」と麻美は出ていった。
「この前言った」らしい中目黒のジムについて、駿の記憶は朧気だった。
―これじゃあ、怒るのも無理ないか…。
自分のふがいなさに思わずため息が出る。
バタンとドアの閉まる音が虚しく響き、駿はたった一人で恵比寿のマンションに取り残されるのだった。