アクティブでアウトドア派の麻美と、どちらかといえばインドア派の駿。
もともと二人の性格は真逆で、出会った頃は麻美のほうが積極的に駿を誘っていた。恋人同士になれたのも、麻美の猛アプローチがあったからだ。
また麻実は常に前向きでポジティブなタイプ。駿がいまの外資系メーカーに転職し、慣れない環境と忙しさに必死だった頃、その明るい笑顔に何度救われたかわからない。
駿にとって、麻美はかけがえのない女性なのだ。
お互い大人同士の付き合いだし、それぞれの時間を持つ必要性も理解している。
ただ、もう少しだけ一緒にいられたら…。
転職先で順調にキャリアを積み上げ、先月にはマネージャーに昇格することもできた。死に物狂いで働いた成果が実を結び、ようやく落ち着いたこのタイミングだからこそ、麻美と共に過ごす時間が欲しい。
一人で家にいると気が滅入ってしまいそうになった駿は、麻美のプレゼントを探すため出かけることにしたのだった。
◆
—週末に一人で来るところじゃないな…。
駿は、家族連れやカップルで賑わう銀座を歩き回っていた。
目についたショップを片っ端から訪れ、麻美が喜びそうなプレゼント探しに奔走していたのだ。しかし、それが見つかるよりも先に、駿の脚に限界がきてしまった。
きっと麻美なら「運動不足だよ!」と言って笑うだろう。そんな事を想像しながら、ふと、『コール ハーン』のショップが目に入る。
—久しぶりだな。よく、革靴とか買ってたっけ。
それは、大学を出て間もない頃の事だ。職場の先輩に勧められて購入したことがある。つやつやとした革の質感と、履き心地の良さは抜群だった。
当時のことを思い出しながらラインナップを見ると、そこにはスニーカーが並んでいる。思わず脚を止め、行儀よく陳列されたスニーカーに見入ってしまった。
いくつか並ぶシューズのうち、手にとったのは『ゼログランド』と言うシリーズだ。
—ずいぶん軽いな。
見た目の重厚感を裏切る軽さに驚いていると、店員がさり気なく試着を勧めてくれた。
ブラックの『ゼログランド シティー トレーナー』を選び鏡の前に立つと、きちんとした服装にもよく馴染むデザインに驚く。ソールのクッションが効いていて、先程まで銀座中を歩き回りクタクタになっていたはずなのに、すぐにもう一周歩けそうな履き心地だ。
店員に、いかがですか?と尋ねられる前に購入を決めたのは言うまでもなかった。
そして、レジで会計をする直前、目に入ったのはレディースのシューズである。