麻美「大好きだから、彼の邪魔はしたくなかったけれど…。」
『今日は家で合流してから出かけよう。』
ジム終わりに、駿からのLINEが届く。
今日は麻美の誕生日で、久しぶりの外デートだ。だが彼のLINEは、相変わらず素っ気ない。
けれど付き合いたての頃は、麻美の目を射るように見つめていた。普段はクールそうなのに、その情熱的な視線とのギャップに麻美は恋をしたのだ。
しかし、今はその情熱に満ち溢れた視線が麻美に向けられることは殆どない。
—付き合ってもう、五年だもんね。
それに、ここしばらく駿はずっと忙しそうにしていた。大丈夫?と訪ねても、「うーん」とか「そうだね」とか、適当な返事ばかり。
こういう時は邪魔をせずに放って置くのが一番と、自分に言い聞かせた。
一緒に出掛けたいという気持ちをぐっとこらえ、寂しさを紛らわすようにワークアウトでストレスを発散させている内に、二人はどんどんすれ違うようになっていったのだ。
誕生日でなければ、きっと彼はデートに誘ってもくれなかっただろう。
そう思うと、麻美の胸はチクリと傷んだ。
◆
「ごめんね、遅くなっちゃった!」
約束の時間を少し過ぎて麻美が慌ててリビングに入ると、駿は照れくさそうに「おかえり」と微笑んでいた。
久しぶりに麻美に向けられた駿の視線は、先ほどまでのくさくさした気持ちを一瞬で溶かす。
「すぐに着替えるから、ちょっと待ってて!」
そう言って、麻美は慌ててクローゼットに向かい、着替えようとする麻美に駿が優しく声をかける。
「麻美、今日はこれを履いてみて。」
「え?」
「誕生日、おめでとう。」
そう言って差し出されたのは、一足のシューズだった。
それは確かにスニーカーなのだけれど、ストレッチニットの生地に、サイドから包み込むようにレザーがデザインされている。
その美しさに見とれながら思わず手に取ると、想像以上の軽さに驚き麻美は目を丸くする。
駿は麻美の顔を覗き込むと、早口にシューズの説明を始めたのだ。
「俺がよく履いてた『コール ハーン』からスニーカーが出ていて。これは『ゼログランド』っていうシリーズなんだけど、すごく軽いだろ?しかも、クッションの性能もいいからワークアウトにも向いてるんだ」
「え、でもこんなにオシャレなのに、」
「そうそう!そのままオフィスにだって行けるだろ?麻美にぴったりだと思って…。」
そこまで言うと、駿は熱弁する自分が恥ずかしくなったのか、ゴホゴホとわざとらしく咳き込む。『ゼログランド オールデイ トレーナー』の良さを熱く語る駿の視線は、出会った頃のまま少しも変わっていない。
自分が惚れ込んだものを熱心に語る駿。麻美が大好きな、情熱的な駿の姿がそこにはあった。
駿に促されシューズに足を入れると、両足をピッタリと包み込む心地よさに、思わず「すごい!」と声が漏れる。また、明るい色の洋服を好んで着る麻実に、白をベースにしたシューズはとてもよく似合っていた。
それから二人で近所のお気に入りの店に向かった。いつもならタクシーを使うのだが、せっかくだから歩くことにしたのだ。
「これからは、二人でもっと出かけよう。色々なところへ。」
インドア派の駿の口からも、自然とそんな言葉が飛び出す。
「ねえ、駿。」
並木橋の交差点に差し掛かると、麻美はくるりと駿に向き直り改めて「ありがとう」と、お礼を告げた。そして、もう一つ嬉しかったことがある、と続けた。
「あのね、私ずっと不安だった。もっと一緒にいたいと思っていたけど、同じくらい駿の邪魔をしたくなかったし。どうすればいいのかわからなくて。
でも、あなたは私のことをちゃんと見ていてくれた。私の好きなことも、好きな色も、全部覚えててくれた。」
それが一番うれしいのだと、麻美は微笑む。
そして駿は、彼女の微笑みに誓ったのだ。
次のプレゼントは、必ず左手の薬指にピッタリと収まるリングを贈る、ということを。
—Fin
<衣装協力>
1P目男性/Tシャツ¥23,000(ザノーネ)パンツ¥36,000(インコテックス/全てスローウエアジャパン)女性/カーディガン¥6,990、ブラウス¥5,990、ラップスカート¥7,990(イェッカ ヴェッカ 新宿)2P目男性/ジャケット¥68,000(ナナミカ フォー スローウエア)Tシャツ¥19,000(ザノーネ)パンツ¥37,500(インコテックス/全てスローウエアジャパン)3P目写真上女性/1P目と同じ・3P目写真下男性/カーディガン¥69,000(共にザノーネ)その他1P目と同じ 女性/ワンピース¥10,990(イェッカ ヴェッカ 新宿)白バッグ¥46,000(コール ハーン)※全て税抜き