2019.03.30
Who? Vol.10茜が、歩に駆け引きについてのレクチャーをしてくれたのは、彼女が死ぬ数カ月前。歩が週刊誌への異動希望を出す前のことだ。歩が、ある文芸誌の企画で、有名な作家へのインタビューを担当することになった時だった。
皮肉ばかり言って気難しいことで有名なその彼に、どうやったら本心から話をしてもらえるのだろうかと、いつものバーで待ち合わせて相談した歩に、茜は言った。
「自分より強い、大きな相手に挑む時はね、まず、勝ちたいって欲を捨てなさい。それに、相手の裏を読もうとか先手をとろうとか、変な欲や色気を出さないことが大事よ。
格上の相手なら、一矢報いれば十分くらいの気持ちでいくべき。それには、相手にはない自分の武器を探して、的確なタイミングで使うこと。今の歩ちゃんが使えるのは、2つの武器だと思うの。それをあなたに教えておくわ」
「私の武器って…」
「歩ちゃんの第1の武器は、その嘘のないまっすぐさね。まずはただ思った疑問や聞きたいことを、彼がどんな大物であろうと、躊躇せずに問えばいい。それが歩ちゃんの性格上、最も大切な正義でもあるでしょう?」
正義という言葉の響きの良さに、歩が大きく相槌を打つと、茜は笑いながら続けた。
「ただね、その正義を振りかざしても、相手に刺さらないことは多々あるわ。そこで格下の立場だからこそ使える第2の武器の登場ね。
ただひたすら注意深く聞き続けているフリをするっていう愚直な方法。圧倒されているフリって言い方のほうがいいかしら?」
「…圧倒されるフリ、ってどういうことですか?」
「難しいことじゃないわ。焦って調子に乗らせてどんどん喋らせてあげればいいってこと。そして根気よく、相手がボロや弱みを出す瞬間を窺うの。
この方法は、あなたの若さを侮り、格下に見てる人にこそ効く。相手が圧勝を確信している時こそ油断して隙が出る。そこを攻撃すれば、一矢くらい報えるわ」
「…ごめんなさい茜さん…ちょっと…敵だとか攻撃すればいいとか…意味がわからないのですが」
インタビューへのアドバイスとは思えない物騒な言葉が並んだことに戸惑い、歩は問い返した。そんな歩の頭を、茜はなぜかじいっと見つめると、とても優しく母のように撫でて言った。
「可愛いわね、歩ちゃん。とても可愛い。あなたが本当に私の娘だったら…私はもっと…」
そこで言葉に詰まった茜が、歩を抱きしめた。
「…あ、茜さん?」
頭を撫でられることも、抱きしめられることも初めてだった。この出来事に驚いている歩の耳元で、茜が囁いた。
ー最後に勝つのは、だれ?最後に、衝撃の事実が明かされる…!ー.....
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