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  • 東京23区男子 Vol.14

    好きになったのは、まさかの男…。1時間かけて都内に通う男が見せてくれた、泣けるほど素敵なもの

    ランチを終え、少し散歩をした後は再び山の中に向かって車を走らせる。

    どこへ連れて行かれるのか不安になりつつも、辿り着いたのは『ハウス オブ フレーバーズ』だった。そして、私はここのチーズケーキを一口食べて、ローストビーフと同様、再び悶絶しそうになる。

    小サイズでも6,000円、ケーキセットも2,700円だが、もっと払ってもいい。こんな山中に、こんなお店があったなんて。私は、知らないことが多すぎる。そう悔いながらゆっくりとチーズケーキを味わい、そしてそれを食べ終わると、また移動だ。

    「サンセットの時間だ!里香ちゃん、行くよ!」

    そう言って、私の手を引いて車まで戻るミツル。


    今日で会うのは2回目のはずなのに、昔から彼を知っていたかのような気持ちになった。そして、まるで高校生の時の甘酸っぱい青春が戻ってきたような感覚を覚えている。

    それは、この適度なサイズ感の鎌倉という街の効果なのだろうか。それとも、穏やかで優しいミツルの人柄なのだろうか。

    レトロな江ノ電に、穏やかな人達。夏祭りを連想させるような、海の香り。全てがセンチメンタルな気持ちにさせるこの街は、時間がゆっくりと流れている。

    1分1秒が愛おしく思えて、“きちんと、日々を丁寧に生きる”という、都会にいると忘れがちな、大事な感覚を思い出させてくれるのだ。

    「都心もいいけど、たまにはこっちもいいでしょ?」

    そう言ってミツルが見せてくれたのは、由比ヶ浜からのサンセット。それは、泣けるくらいに綺麗だった。

    「鎌倉って、良い街ですね」

    ディナーを食べながら、私はつい本音が漏れる。最近、私の周囲でも鎌倉や葉山へ移住した人が数人いる。“どうしてわざわざ遠い所へ?”とも思っていたが、今ならその気持ちが痛いほど分かる。

    「本当?そう言ってもらえて良かった〜!東京も大好きな街だし、働くには最高の場所だけど。でもね、住むならこっちの方が僕には合ってるんだよね。この街に帰ってくると、ホッとするというか、スッと肩の力が抜けるんだ」

    そう言ったミツルの横顔は、本当に自然体の飾らない笑顔だった。それを見て、私の胸は大きく波打つ。

    東京と鎌倉の両方を知った上で、ミツルは鎌倉を選んだ。

    片方しか知らずに、自分の知っているものだけを必死に肯定しようとする人が多いなか、ミツルはそれぞれの良さをきちんと咀嚼した上で、自分に適した場所を選んでいる。

    そう思えるのは、東京から鎌倉に移り住んだ“鎌倉男子”ならではなのだろう。23区の男たちにはなかった余裕と、「豊さ」の考え方に触れて、私の中で凝り固まっていた何かがゆっくりと溶かされていくような、不思議な感覚になった。

    「自然体で、ありのままでいいんだよね。自分は自分だから。里香ちゃんも、自然体で、笑顔でいる時が一番可愛いよ」

    目の前に座るミツルの笑顔に、心がギュッと締め付けられる。

    由比ヶ浜からのサンセットを眺めていた時と同じように、鼻の奥でじんと熱いものを感じた。



    「今日は楽しかったよ。ありがとう」

    「こちらこそ。本当に楽しかったです。ありがとうございました」

    鎌倉駅まで送ってくれたミツルを、私は名残惜しく見つめる。もっと、一緒にいたい。素直にそう思う。

    しかし、私は次のミツルの話に、思わず凍りついたのだ。

    「ちゃんと、気をつけて帰るんだよ。家に着いたらLINEしてね。この前、希恵さんが大変だったからさ・・・」

    ミツルの言葉に、私は“え?”と聞き返す。しかしミツルは“しまった”というような顔になり、急に慌て始めた。


    「え、里香ちゃん知らないの??あの日、僕たちと解散した後に希恵さんの身に起こったことを・・・」

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