2018.12.02
無業の女王 Vol.1優雅な時間が一瞬で壊れる
私は家に帰るとすぐ、お気に入りの珈琲豆・ブラックアイボリーをミルで挽いた。手のひらに響く振動、そして立ちあがる珈琲の豊潤な香り…私は思わずうっとりした。
父は朝早くに出かけたので、気兼ねすることなくのんびり過ごせる。そう思うだけで気分が上がる。
家事手伝いと言っても、実際、私は…家事をしたことがない。いや、それは手伝う隙がないほど、完璧な家事を父がこなしてしまうからだ。
「執筆の息抜きになるから、私がやる。帆希は自分の好きなことをやりなさい」
それが父の口癖だった。
私にとっての好きなことは、自由な時間を過ごすことだ。徒歩圏内にある素敵なお店で美味しいものを頂き、ピラティスで体幹を鍛え、書道やお茶、お花を嗜む…何よりの贅沢な時間だ。
この時間を手放すことはなかなか出来ない。
月に一度、会うか会わないかの腐れ縁となっている彼からもしプロポーズされたとしても…今さらこの生活を手放して結婚できるかどうか…。
そんなことを考えている私のもとに一本の電話があった。警察からだ。
「高木港一さんのご家族の方でしょうか?」
「はい…娘ですけど…父に何か……?」
「突然のことで驚かれるかと思いますが…ついさっき心臓発作でお亡くなりになりました」
ー父が…亡くなった?嘘……冗談でしょ。
電話の向こうでしゃべり続ける警察官の声が、どんどん遠くなっていく。きっとこれは悪い冗談だ。あれだ、きっと。コメンテーターで顔が売れてきたもんだから、嫌がらせか何かよ。
それとも、どっきりみたいなバラエティ!そうに、決まってる!
質素で生真面目で、お酒も飲まない煙草も吸わない、そんな父が…どうして?
「聞こえてらっしゃいます?お嬢さん!」
ふと大きな声をかけられて我に返った私は、指示された場所のメモを取っていた。手が震えて、うまく書けない。
揺れる住所と電話番号…私は、完全に、動転していた。
◆
ー 人ってこんなにも冷たくなるんだ……。
ー 亡骸とは言い得て妙だなぁ
私は父の頬に触れた時、そんなことをぼんやりと考えていた。目の前にある亡骸は、“父”だったものであって、父ではない。だから、哀しいとか寂しいとか情緒溢れる感情が浮かぶことはなかった。
ーじゃ、お父さんは、どこへいっちゃったんだろう…。
心の中でそう呟いても、父はもう帰ってはこない。
帰ってくることは…ないのだ。
兄の航も駆けつけ、今、別の部屋で事情説明を受けている。私は、父だったものの前で、ふと思った一言を声に出した。
「…素朴な疑問なんですけど…私って…どうなるの?ねぇ!」
だけど無情にも返事はなく、私はただじっと、父の亡骸を眺めていた。
説教して娘に嫌われるのが嫌だったのかもしれないけど、いきなり放り出すのは無責任。
散々甘い顔をしてきた父親にも問題があると思う。
【無業の女王】の記事一覧
2019.02.03
Vol.11
34歳になっても自立できなかった女が、誰かに寄生する日々に終止符を打とうと思えた理由とは
2019.02.02
Vol.10
「働かない」と決めた、34歳・高学歴・無職美女の行く末は?明日で最終話!「無業の女王」総集編
2019.01.27
Vol.9
黒い傘がもたらした不運。見知らぬ男から突然声をかけられ、人生初の挫折を味わった女
2019.01.20
Vol.8
初対面でいきなり頭を撫でてきた男の、底意地の悪い魂胆とは。34歳独身女がハマった罠
2019.01.13
Vol.7
あの日、あの時、あそこに行かなければ…。過去の傷を抱えた女2人の、奇妙な共同生活とは
2019.01.06
Vol.6
「僕なら裏切らない」耳心地の良い言葉を並べ、現代女性の“駆け込み寺”を作った男の正体
2018.12.30
Vol.5
初めての婚活で出会った、35歳こじらせ男との恐怖の一夜。急に態度を豹変させた、彼の正体とは
2018.12.23
Vol.4
意地でも離婚はしない。夫以外の男に縋りながら、虚しさを溜めこむ女の歪んだ愛情
2018.12.16
Vol.3
“二子玉川で1番みっともない女”に成り下がった日。それでも曲げられない、34歳・無職の主張
2018.12.09
Vol.2
働かずに生きてやる。彼に裏切られて人生最悪の日に下した、34歳・独身女の無謀な決断
おすすめ記事
2022.08.06
30歳を過ぎても
30歳を過ぎても:「生活水準は下げられない」港区にしがみつく32歳女が、副業先のバーで流した涙
- PR
2025.03.31
結婚1年目から、激務のせいでギスギス…。崩壊寸前のパワーカップルを救ったアイテムとは?
2023.02.22
未解決恋愛事件
深夜0時。彼女から「今、仕事終わったよ」と写真付きで連絡が。そこには“あるモノ”が写り込んでいて…
2019.01.30
この愛のない世界で
「うちの嫁としては迎えられない」恋愛結婚を禁じられ、父親が決めた“政略結婚”に甘んじた男の狡さ
- PR
2025.03.31
えっ、あの“ミャクミャク”の部屋に泊まれる!?どっぷり万博に浸れる、いまだけのホテルステイとは…
2021.08.23
男と女の怪談~25歳以下閲覧禁止~
1時間1万円の『秘密のサービス』。33歳までに、絶対に結婚したい独身女の最終手段
2024.02.07
春の風に吹かれて
春の風に吹かれて:大学卒業7年で差が歴然。29歳女が同級生に感じるコンプレックス
2018.03.05
婚活は、ビジネススクールで!?
婚活は、ビジネススクールで!?:一般職なのに、まさかの昇進?27歳女に訪れた人生の岐路
- PR
2025.03.27
7種類ものフレーバーが楽しめる! この春、台湾生まれのフルーツビールが話題!
- PR
2025.03.28
ほろ酔い美女の正体とは!?17LIVEの人気ライバー4人を、港区のバーにお連れしてみたら…
東京カレンダーショッピング
ロングヒット記事
2025.03.19
運命なんて、今さら
初めて彼のマンションを訪れた28歳女。しかし、滞在10分で、突然「帰りたい」と思った理由
2025.03.22
男と女の答えあわせ【Q】
「豊洲に住んでいる」と33歳男が言った途端に、デート相手の女が戸惑ったワケ
2025.03.23
男と女の答えあわせ【A】
「年収800万くらいでもいいかな…」相手に求める条件を妥協したつもりの30歳女の大誤算
2025.03.17
1LDKの彼方
「何もないって言われたけど…」彼氏が他の女と連絡を取っていたことが発覚。30歳女は思わず…
2025.03.20
TOUGH COOKIES
「幸せそうな彼女がなぜ?」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…
この記事へのコメント