人のものを奪ってはいけない。誰かを傷つけてはいけない。
そんなことは、もちろんわかっている。
しかし惹かれ合ってしまったら、愛してしまったら、もう後戻りなんてできない−。
三好明日香(みよし・あすか)は渋谷のWEBメディアで働く24歳。
健全に恋愛を重ねていた明日香だったが、その小さな心の隙に、ある男の存在が入り込む。
大谷亮(おおたに・りょう)、34歳。
図らずも惹かれ合う、二人の男女。その想いは“純愛”か、それとも…?
“運命の人”に出会ったら、女は必ず直感が働くって話。
聞いたことはあったけれど、そんなの本気で信じていたわけじゃない。
私も、男性経験が豊富なタイプではないにしろ、恋なら人並みにしてきている。
長く付き合っている彼氏だっていた。
大学2年の時から続いている昭人(あきと)とは、もう丸4年になるだろうか。
彼は公認会計士を目指し未だ勉強中の身であるため、今すぐというわけにはいかないが、お互いに結婚だって考えている。
そうだ。思い返してみれば、昭人と出会った時にも直感などまるで働かなかった。
昭人とは心理学の授業が同じで、代返を頼んだり頼まれたり、ノートの貸し借りをしているうちに仲良くなった。
しかし私はその頃まったく違う別の男が気になっていて、昭人にその相談をしていたくらいなのだから。
そもそも私は、惚れっぽいタイプではない。
ドラマや漫画に出てくるような身を焦がすほどの恋に憧れはあっても「現実にはありえない」と、どこか冷めた視線を送ってしまう側の女なのだ。
…だから、思いもしていなかった。
まさか自分が、理性を超えた激情に流されてしまうなんて。
“道ならぬ恋”に、溺れてしまうだなんて。
この記事へのコメント