2018.12.06
私のモラハラ夫 Vol.1
「あれ?大根の切り方が違うね?今日おでんって言ってなかったっけ?」
陽介が鍋を指差しながら真美に顔を向けた。指先には2センチの厚さに切られた大根が浮かんでいる。
朝の宣言通り、今日の夕飯はおでんにした。
結婚直後、義実家に住み込みで料理を教えてもらったおかげで、義母のレシピの多くを忠実に再現できるようになった。このおでんも、具材一つ一つの下ごしらえから出汁の取り方までこだわった、陽介の好物料理である。
「いつもより薄く切ったの。時間がなかったから、お出汁の味が早くしみるようにと思って。」
「時間なかったって、なんで?」
静かな声がダイニングに響き、真美は「えっと…」と言葉を詰まらせてしまう。
「写真くれたのは12時半だったよね?ランチは長くても2時間くらいだし、そこからスーパーに行っても4時には帰ってこられるんじゃない?」
「…スーパーに大根が売っていなくて、遠くの店まで行っていたから。ごめんなさい。」
真美はとっさに嘘をついた。本当はランチをして留衣と別れた後、彼女が着ていたような大人服を求め、ショッピングに2時間ほど費やしたのだ。
手持ちの現金でまかなえたのは、ブラウス一枚のみだったが、久しぶりの一人でのショッピングはとても楽しく、新鮮だった。
家に帰った頃にはすでに6時を回っており、夫が戻るまでの1時間で、圧力鍋を駆使しおでんを作った。もちろんブラウスは、夫の趣味に溢れたクローゼットの奥に押し込んだ。
「ああ、大根が。わざわざ大変だったね。ありがとう。」
言い訳に納得したようで、陽介の声のトーンは元に戻った。薄い大根にカラシを塗り、口に運んでいる。
「それで、お友達とのランチは楽しかった?」
「うん!留衣はバリバリ働いてるし、仕事のウラ話が聞けて面白かったの!それに、同級生も東京に何人か居るみたいで、昔話なんかもしたわ。」
陽介は、微笑を浮かべ頷いている。真美は、チャンスとばかりに、機嫌が良さそうな夫に打ち明ける事にした。
「それでね、やっぱり私も外で働きたいなって思ったんだ。家事に影響が出ないように、パートを探してみようと思うんだけど…どう思う?」
しかしその瞬間、陽介の顔から笑顔が消えた。
陽介は真美から目を反らすと、ため息をついて呟く。
「一体、何が不満なの?」
朝と同じ曇った表情だが、今朝のそれよりも雲行きがあやしい。
「ううん、不満とかじゃないの。ただ毎日家にいるだけだし、何かしたいなって…」
「…マミちゃんは、僕の妻っていうだけじゃ満足できないってこと!?」
箸を握りしめたままの手が、小さく震えるのを見て、真美は「違うの!」と声をあげる。
「違う、違うの。そんなつもりで言ったんじゃないの。変なこと言ってごめんなさい。」
すると陽介の苦しげな表情が再び笑顔に変わり、「分かってくれたなら、よかった」と、再び大根を鍋から探しはじめた。
「うん。マミちゃんの作ってくれた"大根の煮物"、とっても美味しいよ。」
ー煮物じゃなくて、おでんだって言ってるのに…。
真美は、初めて見た夫の態度に違和感を感じながらも、彼の苛立ちが再発しないようにと、微笑むことしかできなかった。
▶NEXT:12月13日 木曜更新予定
夫・陽介の本性に、真美が気付き始める…!
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
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