「あんた、若っ!同い年なんて信じられない!そんなかわいい服、もう私着れないわよ。」
『37 ローストビーフ』で、久しぶりに再会した留衣は、真美の姿を見て感嘆の声をあげた。
元々小柄で童顔なのが影響しているのだとは思うが、今日の服装がさらに幼さを加速させているのだと思うと、真美は小さくため息をつく。
体のラインを一切見せないワンピース。陽介が真美のために揃えてくれたワードローブの中では、一番大人っぽいものを選んだつもりだったのに。
「もう、そんな事ないって。それにしても留衣はすっかりキャリアウーマンって感じ。」
留衣は大学卒業後、製薬会社に就職し、MRとして働いている。白いジャケットに首元がスッキリ開いたシャツを着こなし、大学生の頃のカジュアルな装いとは全く違っていた。
夕方にアポがあるのよ、と、綺麗に染められた髪をかきあげる仕草が、真美にはとても眩しく映った。
「いいなあ、スーツなんてもう一生着る事ないもの。私も働きたいから、本当に羨ましい…」
思わず出てしまった言葉が、嫌味に聞こえたのだろうか。留衣は、大げさにため息をついた。
「もー!素敵な旦那さんがいて、一生仕事しなくても安泰な人生なんて、こっちが羨ましいわ。それに、働きたいなら働けばいいじゃない!」
「うーん。主人がね、働くのを嫌がってるんだ。…あ、写真…!」
しまった。真美は、夫の話を口にした瞬間にあることを思い出し、急いでスマホを取り出した。
結婚当初から、一人での外出時には、出先の写真を相手に送るのが二人のルールだ。陽介曰く、「思い出を二人で共有するため」というのが理由だという。
「久しぶりだし、一緒に撮ろうよ!」
突然の提案に留衣は一瞬驚いたようだったが、「綺麗に撮ってよね」とインカメラに収まってくれたので、真美はホッとしたのだった。
「そうだ、颯太のこと覚えてる?今、東京にいるんだって」
「え?颯太が?」
陽介に写真を送り終えた真美は、懐かしい名前を耳にして勢いよく顔をあげた。
中学校まで同じ学校に通っていた並木颯太とは、近所に住んでいたこともあり、留衣と3人でよく遊んだ。いわゆる幼馴染だ。
真美と留衣が女子大に進んでからは疎遠になり、真美が最後に彼に会ったのは成人式だろうか。結婚式に招待したかったが、異性の友人を呼ぶのは好ましくないという陽介の意向で、呼ぶことができなかった。
「東京で営業マンやってるらしくてさ。今度久しぶりに飲もうって言ってるんだけど、真美もどう?」
ー飲む、ということは、夜か…。
思い返せば、結婚して以来、一人で夜外出した記憶がない。そして、絶対に陽介はいい顔をしないということは、火を見るよりも明らかだ。
結局、日程が決まったら連絡するという留衣に、「主人に確認してみる」と返答を濁したのだった。
この記事へのコメント
全て支配したいんだね、こわ。
でも周りの専業主婦の子で、旦那さんの機嫌伺ってるタイプ多い気がする。