拭いきれない不信感
「本当ですか?嬉しい、いつなら空いていますか?」
「え…!?えっと…ちょっとどうかな…?譲も忙しいし、スケジュール確認しないとちょっと分からないな…」
「じゃあ、また分かったら教えてくださいね!」
恵里奈はそう言って、人懐っこい笑顔を見せる。その顔は、先ほどの貼り付いた笑顔ではなく、心から笑っているように見えた。
ー義理の兄弟姉妹って、こんなに近いものなんだ…?それとも彼女が特別、人との距離が近いのかな…?
これから家族になろうとしている女性からの誘いを、断るのも失礼だ。でも、美香の脳裏に先ほどの不自然な笑顔がふっと浮かび上がり、その場で彼女からの提案を快諾できなかった。
帰り道、少し肌寒く乾いた風を肌に感じながら、美香は譲にそれとなく彼女の印象を聞いてみた。
「今日、楽しかったね。恵里奈ちゃんのこと、どう思った?」
「すごく気の利く良い子だったね。あんな素敵な子が太一の嫁になってくれるなんて、俺は本当にホッとしたよ。おふくろとも美香とも楽しそうに話していたし、最高の妹ができそうだな」
予想通り、夫は全く恵里奈に対して懸念を抱いていない。それはきっと、義父母も同じだろう。
自分だけが彼女に対して違和感があったことに、美香は罪悪感を覚えた。なのでそのことには触れずに「そうだね、良かったよね」といい、その感情は打ち消そうとした。
そして数日後―。
「太一がさ、今度恵里奈ちゃんと一緒にウチに来たいって。今週末って言われてるんだけど、何も予定なかったよな?」
「え、今週!?」
先日の食事会から数日しか経っていない。それなのに、こんなすぐに…?
その時、美香の頭に恵里奈の言葉がよぎった。
「あんな和モダンな家、憧れます。」
太一から聞いたにしても、当たり前のように知っているその口ぶりが、心の中でずっと引っかかっていた。
「ん?なんか都合悪かった?」
「あ、ううん。今週ね、大丈夫。そっか、ウチに来るなら何か美味しいものを用意しなくちゃね」
美香は彼女への不信感を悟られないよう、笑顔で取り繕う。
だが彼女の名前が出た時、不気味にこちらを見て笑っているお面のような顔が目に浮かび、一瞬背筋が凍る。
心に何か、黒く重たいものがずしりと覆いかぶさる。
その日美香は、うまく笑顔を作れなかった。
▶︎NEXT:10月15日 月曜更新予定
美香夫婦の家にやって来た恵里奈。美香はさらに恵里奈に不信感を抱くようになる…。
この記事へのコメント
この女、おかしいと思って当然だとじゃないかと。
最近東カレさん、メンヘラとかサイコパスとか多くない?笑
絶対数が増えてるってこと?