―この女、何かおかしいー
自分だけがほんの少し感じた、しかし強烈な違和感。
それをもし、未来の家族となる人に感じてしまったら…?
大手化粧品会社で働く美香(32歳)は、公認会計士である夫の譲(35歳)と、平穏で幸せな日々を送っていた。
しかしその日常は、ある日を境に崩れていく…。
これでやっと、私の物語が始まる…。
これまでの人生は、序章に過ぎなかったのよ…。
女は心の中でそう唱えると、口角を少し上げて不気味な笑みを作り、「またね」と小さく呟きその場を後にした。
◆
「あ、美香さん?元気にしてる?」
仕事が終わり、義母からの着信に折り返すと、電話越しの声はいつになく嬉しそうだった。
「あのね、再来週の土曜日に、太一が婚約者を連れて来るって言うの。それで、せっかくだからあなたたちも来ないかしらって…」
義理の家族とは、お互いにほど良い距離感を保ち、良好な関係を築いている。夫ではなく、まず美香に電話をしてきたのも、彼女なりの気遣いなのだろう。
「わー、そうなんですね。おめでとうございます!譲さんに予定を確認してみますけど、きっと大丈夫だと思います」
「良かったわ。彼女の方があなたたちにも会いたいみたいで…。また分かったらメールしてね」
すぐに確認します、と答えて電話を切り、家までの道を急ぐ。
ーへぇ…太一君もとうとう結婚するんだ。良かったなぁ、譲も喜ぶだろうな…。
美香の夫である譲は、都内で公認会計事務所を開いている。5歳離れた弟の太一を昔から可愛がっており、結婚した後も美香を含めてたびたび食事に行く仲だ。
また太一も兄に憧れてか、公認会計士の資格を取ろうと、今は譲の下で働いているのだ。
家に帰り、先ほどの電話の内容を話すと、すでに譲は知っているようだった。
「俺も今日太一から直接聞いたよ。その日は、何も予定がないから大丈夫だよ。それより太一のやつ、いつの間にそんなことに…」
「ね!前にちょっといい感じの人がいるとは聞いてたけど…。でも良かったね。会うの、楽しみだなー」
太一は心優しく素直でいい子だが、生真面目で遊びを知らず、あまり女性にモテる方ではない。そんな弟の結婚が決まったとあって、譲は心から嬉しそうな顔をしている。
「じゃあ、今日は前祝いということで、前に買ったオーパスワンでも開けようか。美香も飲むだろう?」
「えー、太一君いないのに開けちゃうの?でもまぁせっかくだし、開けちゃおっか。グラス取ってくるね」
その日、太一の結婚を自分たちのことのように喜びながら、夫婦でとっておきのワインで乾杯した。
この記事へのコメント
この女、おかしいと思って当然だとじゃないかと。
最近東カレさん、メンヘラとかサイコパスとか多くない?笑
絶対数が増えてるってこと?