完璧な義妹
パールが好きな義母にはミキモトのブローチ、日本酒好きな義父には黒龍 石田屋の純米大吟醸。ワイン好きの譲には、シャトーマルゴー。そして、ネイル好きな美香にはシャネルのネイル6色だった。
「あら、そんな気を遣わなくて良いのに…。しかも、こんなに高級なもの、戴いちゃって良いのかしら…?」
義母は少し戸惑った顔を見せた。しかし男性陣は全く何も気にせず、子供のようにはしゃいでいる。
このとき美香は、自分が考える常識との“ズレ”を強く感じた。
ーこれ…。一人当たり数万はかかってる…?実家に来るだけでこんな高級なものを贈るって、なんか凄いな…。実家がよほどお金持ちとか…?
そうは思ったものの、事前にリサーチして、一人一人が喜ぶものをプレゼントする気遣いに感心した。さらに彼女は気が利く上に、聞き上手で話題の引き出しも多く、話術でも皆の心を掴んだのだ。
その場にいた全員が彼女の虜と言えるくらい、気に入られたのが分かる。それなのに美香だけはやはり、何か妙な気がして仕方がなかった。
ーなぜだろう…こんなに素敵な子なのに…?どうしても違和感が拭えない…。
無意識に見てしまっていたのだろう。その瞬間、恵里奈と目が合った。そして彼女はにっこり微笑んだ。
途端に、美香の背筋が一瞬ゾクッとする。
ー目が笑ってない…。
正確には、笑っていないというより、笑っているように見せようと無理やり作った三日月型の目。それはまるで仮面のように貼り付いて、本当の表情を隠しているようなのだ。
美香は思わず、彼女から目線を逸らして俯いた。その不自然な表情を、直視できなかったのだ。
しかし恵里奈はそれに気がついていないのか、特に気にすることもなさそうに、そのまま皆との会話に戻った。
◆
食事の後、美香が洗い物をしていると、エプロンを身につけた恵里奈がやって来た。
「あ、ここは私がやるから。恵里奈ちゃんはお客さんだし、座ってて良いよ」
「いえいえ、手伝わせてください。それに、お義姉さんともゆっくりお話ししたかったんです」
そんな可愛らしいことを言われては拒否できない。少し躊躇いを感じながらも、2人で洗い物をすることになった。
その間、恵里奈はたわい無い話で積極的に美香に話しかけ、その場を盛り上げようとしてくれる。
美香も彼女の一生懸命な姿に、先ほどの違和感を忘れ、徐々に打ち解けた。
ー彼女も緊張していたのかな?だから、あんな風に作り笑いに見えたのかも…。誰だって、大好きな人の家族に会うのは緊張するもんね…。
彼女を少しでも怖いと思った、自分の感覚を恥じた。誰がどう見ても、可愛らしく素敵な女性なのだ。
「お義姉さん達って、目黒に住まれてるんですよね?
いいなー、それにあんな和モダンな家、憧れます。今度、伺ってもいいですか?」
「…え?あ、うん、そう…。そうだね、機会があれば是非…」
―和モダンな家って、何で知ってるんだろう…。太一君が写真でも見せたのかな?
突然の距離の詰め方に、驚きを隠せない。そもそも会ったばかりの義兄の家に行きたいものなのだろうか…?気を緩ませた途端、違和感が再び湧いてくる。
ただの社交辞令だろうと流そうとすると、思わぬ答えが返ってきた。
この記事へのコメント
この女、おかしいと思って当然だとじゃないかと。
最近東カレさん、メンヘラとかサイコパスとか多くない?笑
絶対数が増えてるってこと?