「おはようございまーす♡」
週のラストだというのに、疲れ知らずの明るい声。
青井千秋が出社すると、ポジティブでフレッシュな空気が送り込まれるよう。
一瞬で空気を変えるそのパワーは、本当に素晴らしい。彼女を見ていると心からそう思う。けれども−。
無機質な職場に華を添える千秋に感謝を抱きつつ、しかしやはりどうしても、自分が失ってしまったモノに喪失を感じずにいられない花純なのだった。
…仕事しよう。
またしても卑屈になってしまった自分を振り切るようにPCへ向き直る。すると、珍しい相手から社内メールが届いていた。
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To:Kasumi Furuichi
From:Mirei Kinugasa
Subject:久しぶり!
おはようー😊
もし空いてたら今日、久しぶりに食事でもどうかな?
この前、廊下で花純のこと見かけたよ。
相変わらず仕事忙しそうだけど、たまにはリフレッシュしないとね🎵
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−美玲…!!
まさに今、花純が必要としていた相手である。
すぐさま“行きたい!”と返信。朝からイマイチ気分の乗らない日だったが、楽しみな予定ができると急にやる気が湧いてくる。
必ず18時には会社を出ようと、花純は意気揚々と仕事に取り掛かった。
美玲には、聞いてみたいことがたくさんある。
美玲が語る“美の秘訣”
「なんか懐かしいね、ここ」
南青山の『カシータ ラウンジ』に到着すると、美玲は花純に向かってキラキラとした笑顔を向けた。
ここは以前にもふたりで何度か足を運んだことのある店で、花純も「ね、懐かしい」とうなずき返す。
美玲とは大学も同じということもあり、社会人になってすぐの頃は…まだ美玲が結婚する前には、こうして会社帰りにふたりでよく食事をしていたのを思い出す。
そういえば、美玲が経営者の夫と結婚を決めた時は少しばかり驚いた。
彼女は誰かに恋の相談などをするタイプではないから、美玲の恋愛事情を花純はよく知らない。けれどもなんとなく…彼女は大学で同じサークルだった翔平のことが好きなんだと思っていた。
翔平に関しては、誰の目にも明らかなレベルで美玲に憧れていたし、素直になれない男女をもどかしく思いながらも、花純は「きっといつかどこかでタイミングが合うはずよ」などと勝手にふたりを応援していたのだ。
まあしかしそんなこと、今となれば昔の話である。
今、目の前に座る美玲の変わらぬ…いや、以前にも増して幸福そうな姿を見れば、彼女の選択が正しかったことは明白なのだから。
「花純…どうかした?」
美玲に訝しげな顔で覗き込まれ、花純は慌てて我にかえる。あまりの懐かしさに、しばし回想に耽ってしまっていた。
そんなことより、花純には、美玲に聞いておかなければならないことがあったのだ。
「ねぇ、美玲って何か特別なスキンケアしてるの?ほんと昔から、肌が綺麗で羨ましい」
花純の言葉に美玲は「ありがとう」と小さく呟く。そしてふと、思い出したように「実はね」と切り出した。
「特別なことは何もしてないけど…土台美容液だけは、毎日欠かさず使ってる。
洗顔後、化粧水の前につける、すっごくきめ細かな炭酸(※)泡の美容液なの」
「何それ、気になる…!」
美玲が毎日欠かさず使っている美容液とは、どういうものなのだろうか。美玲のお勧めならぜひ使ってみたい、と花純は身を乗り出して聞く。
「どんなに忙しくても、肌のお手入れは大事にしたいじゃない?土台美容液は泡で出てきて、それをお肌に塗り広げるだけ。簡単だから続けられるし、何より使い心地がすごく気持ちいいの」
美玲から商品名を教えてもらい検索すると、Amazonでも売っていることが分かった。
「Amazonでも売ってるんだ…!ありがとう、帰りがけにゆっくり電車で見てみる」
花純は、同い年の美玲の美しさの秘訣を知り、心の底から嬉しくなる。そしてこのあと、美玲の外見だけの美しさではない、さらに大切なことに気づくのだった。