外銀女子 Vol.2

外銀女子:“勝ち組”が、勝ち続ける理由。一般庶民は知る由もないセレブ社交の実態

時刻は22時。

直子は昼間のモヤモヤを晴らすかのように、ジムでモーレツに腹筋と背筋を繰り返していた。

47階に位置する社員用ジムの窓には、地平線までビーズをまき散らしたような夜景が煌々と光る。

ロマンチックな眺めのはずだが、昼間の苛々のせいで、直子の心は闇に沈んだままだった。


余程の繁忙期でない限り、直子は週5日このジムに通う。

時間が無い時はランニングだけで済ませることもあるが、今日のように比較的時間にゆとりのある日は、体幹トレーニングとランニングで1時間程しっかり汗を流す。

何も運動が好きなわけでは無い。ただ直子は太りやすい体質のため、12時間以上デスクに居る生活では美しい体を維持できない。

「あ、佐藤さん、今日もえらい~」

ちょうど30回×3セットの腹筋を終えた時、隣のストレッチエリアから馴染みのある声が投げかけられた。

出た、持田あゆみ。

―もう、ジムに居る時ぐらい忘れさせてよ…!

なんでここに居るのよ!と喚きたいくらいの気持ちだが、ここは社員用ジム。社員同士遭遇することに何の不思議もない。

「佐藤さんってここのジムの会費絶対モト取れてるよね(笑)いっつも見るもん~」

仕方なく振り返った直子に、あゆみは涼しい顔で笑う。

そう言うあゆみ自身は週1日見かけるかどうか、というくらいだ。しかもいつものんびりストレッチをする程度で、運動らしい運動をしているところを見たことが無い。

そのくせ全身どこにもぜい肉は見当たらず、ほっそりとしたスタイルを維持しているのだから...本当に不公平だ。

―週1回のストレッチくらいで痩せるんだったら、苦労ないわよ!

思わず嫌味が口に出そうになる。

しかしそんなセリフを吐けば、ますます自分の“負け”を認めるようなもの。直子はかろうじて無言でやり過ごした。

「そういえば、Davidがレポート面白かったって言ってたよ」

「…ありがとう!おかげで、来週ミーティングセッティング出来たわ」

悔しいが、ここは素直にあゆみのおかげだと認めざるを得ない。

そもそも思い返せばDavidとのランチに誘ってくれたのも、ミーティングを設定してくれたのも、全てあゆみの厚意によるもの。

....そうなのだ。直子だって、わかっている。結局、自分が一方的にあゆみを目の敵にしているだけで、彼女自身に非は1ミリもないことくらい。

―もう無駄に張り合うのはやめて、素直に負けを認めたほうが楽かしら…。

しかし、そう思った瞬間。

あゆみの発した一言が、直子の闘志に再び火をつけた。


▶NEXT:8月15日 水曜更新予定
お嬢様が外銀で働き続ける“心外な”理由とは。恵まれた女に、庶民の勝ち目はあるのか?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
ああ、あゆみは全然悪くないって、わかっちゃいるのね。そうそう、そもそも世の中は不公平。そこに目をつぶって平等思想で育てられるから、現実に当たったときに動揺するのよね。いっそ差別前提の江戸の庶民の方がリアリストだったんじゃないかしらん。
2018/08/08 05:2899+
No Name
こーゆうお嬢様育ちも上手く利用してのし上がっていけばいいのにね。嫉妬よりも利用価値を考えて骨の髄まで使ってあげたら利益になるよっっ
2018/08/08 05:5499+返信2件
No Name
直子、負けず嫌いすぎだとは思うけど、実直で好感持てます。自分が努力して手に入れようとしてるものを、何の気なしにに横でスルリと手に入れられてたら、自分勝手でも苦々しい気持ちになるのもわかる。その気持ちを、本人への攻撃ではなく、汗で流して発散しようとしてるから思考も健康的ではないですか?
2018/08/08 06:2199+返信3件
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