相変わらずのポンコツ嫁
「ただいまー......」
玄関を開けると、廊下の奥のリビングのドアからトイ・プードル2匹がひっそりとこちらを伺っている。
松田がリビングに近づくと、犬たちは大急ぎでソファで寝転ぶ春子の身体にピタリと寄り添った。
普通、犬という生き物は家主の帰宅を大袈裟に喜ぶものと思う。だがこの2匹は、松田のことを完全に格下の存在、もしくは不審者のように認識していた。
「おかえり」
春子はいつものように、テレビから目を離さずに言う。
最近は「ゲーム・オブ・スローンズ」という海外ドラマにハマっているようで、このために春子は勝手に巨大な4Kテレビを購入した。
その画面では、おぞましいドラゴンが火を吹いて人間を焼き殺している。
「春ちゃん...。そんな残酷なドラマ、何が面白いの?もっと感動的なドラマとか、名作映画とか色々あるじゃん?あ、俺久しぶりにTSUTAYA行って来るから、久々に何か映画でも一緒に観よ...」
「うるっさいんだけど」
すると春子は突然こちらを振り返り、まさに画面上のドラゴンさながらの怒りの表情を浮かべていた。
「あのさ、人が面白く観てるドラマをdisるのとかホントやめてくれる。気分悪いんだけど。それに、今コレより面白いドラマも映画もないから。邪魔しないで」
怒りの春子の傍では、犬2匹が援護射撃でもするように「グルルルルル...」と松田を威嚇している。
夫婦でロマンチックな映画でも観て、そのままベッドへ...などという魂胆は、見事に打ち砕かれてしまった。
「ご、ごめんなさい...」
そうして松田は、大人しくコンビニで購入したサラダうどんを一人静かに食べ始めた。春子が夫のために料理を作らなくなったのは、もう随分前のことだ。
心の中にピュウと木枯しが吹いたような気分になるが、こんな時ばかりは犬たちも足元に寄ってきて、可愛らしいお座りで松田を見上げてくれる。
「おっ、いい子だな、ヨシヨシ」
だが、そのお利口ぶりに感心して犬にうどんを与えた瞬間、再び春子の怒声が飛んだ。
「だから、人間の食べ物はあげないでって言ってるでしょ!?何回言わせるのよ!?」
「す、すみませんでした...」
松田は再び素直に謝罪をしたが、こんな風に帰宅した途端に何度もキレられるのは、もはや日常の1コマである。
だが今夜は、幸せ家族計画実現のため、この程度でヘコたれてはたまるかと、松田は一人気合いを入れた。
この記事へのコメント
もはや心理的DV?レベルで引いてます。