デスパレートな2人 Vol.2

「同棲しない?」交際1ヶ月、秘密の社内恋愛中の男から受けた提案。その衝撃的な理由に揺れる女心



そんなある日、結衣は思いもよらぬ提案を健から受けた。

それは、仕事終わりに『焼肉いぐち』で、丁寧に火入れされた焼肉を堪能している最中のことだった。


「同棲しない?」

「え……?」

唐突過ぎるその提案を飲み込めず、思わず聞きかえす。まだ付き合って1ヶ月。徐々にお互いの生活リズムや価値観を掴みかけてきたところである。

結衣の動揺を悟ってか、健はその理由を淡々と説明し始めた。

「いくつか理由がある。まず、デートの約束に時間をとられるのが嫌だということ。あ、会いたくないとかじゃないよ、むしろ会いたいからなんだけどね。

お互い、社内外の付き合いも多い上に、仕事やスキルアップのための勉強の時間も大事だ。だけど、恋人と一緒にいる時間も欲しい。であれば同棲が効率的ではないかと。」

健はまるで仕事のプレゼンのように、理路整然と話した。

その説明を聞いているうちに、結衣はいくぶん落ち着きを取り戻し、その意図を理解し始めた。

たしかにお互い多忙なスケジュールの為、“いつ会える?”“何時から会える?”といったすり合わせは手間がかかった。

休日は健が営業部のゴルフなどで不在にすることも多く、この一カ月は週末に会えた試しがない。お互いのタイミングが合えば平日に食事に行き、翌朝早くなければどちらかの家に泊まる。これが2人のリズムになっていた。

だがその会える平日も、仕事や飲み会などが予定通りに終わる訳でもない為、お互いに時間を持て余すことも多々あった。

健の提案は、効率的に2人の時間を作ろうというものであった。

―そりゃあ、もっとたくさん会えたらいいなとは思うけど…。

この生活リズムのまま一緒に住むと、家の中でもすれ違い、ただのルームシェアのようにならないだろうか。

しかしそんな不安を募らせる結衣をよそに、健は変わらず「2人で住む方が、家賃も光熱費においても効率的」と、同棲がいかに効率的でメリットがあるかと饒舌に説明を続けた。

健の思いも尊重したいし、せっかくの提案を無下にもしたくない。

だけど付き合ってまだ1ヶ月。このタイミングで一緒に住むことは、本当に最善なのか。

健は周囲からの信頼も厚いが、プライベートも同様なのだろうか。

それに何より、結婚前の同棲は上手くいかない話もよく聞く。しかしだからといって、健に結婚する気があるのかを確認するのも、結婚を迫っているようで嫌だった。

結衣の頭の中は、健の提案を尊重したいという気持ちと、うまくいかなかったときのリスクへの不安が、行ったり来たりしていた。

健はひととおり話終えたが、結衣はそれに答えることができず、目を伏せた。

すると健がゆっくり口を開いた。

この記事へのコメント

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No Name
この場合の同棲しようは将来を見据えてというより、単なるデートの手抜きのような、、、口の上手い男には要注意ですなあ。
2018/07/31 05:3799+返信4件
No Name
同棲した時点で会社にバレるよね?
引越したら会社に届けるし、、
2018/07/31 05:4599+返信6件
No Name
この展開の早さにはちょっとついていけんかも。この男、状況変わった別れようも理路整然と言いそうでなんか不安だ。
2018/07/31 05:2899+
もっと見る ( 40 件 )

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