健は営業部のエースで、社内では断トツに目立つ存在である。
少し釣り目の塩顔が笑うと目尻が下がって、途端に可愛いらしい感じになる。女性ならば嫌いな人はいない顔立ちだ。そして180センチ近い身長に引き締まった体は、男らしくもある。
また見た目だけでなく仕事もできる彼は、32歳にして次期マネージャーとも名高い。
もちろん社内でもかなりモテるので想いを寄せる女性は多くいるようだが、付き合うにいたるまでの話は聞いたことがない。
そんな健と結衣が急接近したのは、少し前の会社の飲み会だった。
元々何度か社内の飲み会で一緒になったことはあるので、お互いの存在は認識しあっていた。
しかし健に彼女がいたり、また結衣も「仕事で目に見える結果を出してから」と思っていたので、彼に近づくタイミングを待っていたのである。
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「MVPを取る実力者は、お酒にも強いね。」
社内での10人以上の賑やかな飲み会。皆が酔い始めても潰れずに淡々と飲み続ける結衣に、健が話しかけてきたのは飲み会が終わる直前だった。
結衣は、総務部所属。
前職で培った法律の知識により、それまで未着手だったコンプライアンス関係を整えたり、法律の観点から鋭い角度で進める幅広い仕事ぶりが、見事間接部門の前期MVPに輝いたのである。(ちなみに健は2回連続、営業部門のMVPを獲っていた。)
これまで健が付き合っていたのは、いわゆる仕事を腰かけ程度に考えている“ふんわり系女子”が多かったようだ。
しかし最近「同じ目線で仕事の話ができる子がいい」と言っていたと聞き、いまの自分に健はきっと興味を持つだろうと、密かに思っていた。
「ねぇ…。吉田さんってさ、彼氏いるの?」
「今はいないです。」
初めての少し踏み込んだ会話に、結衣の心は高鳴った。
「いないんだ、意外だな。吉田さんに彼氏がいないって知ったら、社内中の男がざわめくよ。…良かったら今度2人で飲みに行かない?」
健は少々酔っぱらっていたようだが、翌日、きちんと食事のお誘いが来たのだった。
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こうして、恵比寿の和食屋『くおん』にて、念願の2人きりでの食事が実現した。
「僕のお気に入りのお店なんだ。吉田さんと初めての食事だから、ゆっくり話せるところを、と思って」
そう言ってくしゃりと笑う彼の笑顔に、本気度が見え隠れしている気がして、結衣の胸は高鳴る。
憧れの健と、美味しい和食と日本酒。結衣は幸せを噛みしめていた。
そしてお店を出たあとすぐ、健は突然、こう切り出したのである。
「…俺と、付き合わない?」
この記事へのコメント
ライターさん、あまりうちの会社の内実暴露しないでね笑。
社内恋愛だと、そう言いたくなる気持ちはわからないでもないけど。
でも、いざとなったら乗り換え・逃げ切り作戦に出るんじゃないかと、不安にしかならない。
初っ端から不安にしかならない恋は、やっぱり続かない。