恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.6

夫のスマホを盗み見る妻の心理。裕福な男に“飼われる”専業主婦の、ささやかで悪質な抵抗

人妻に芽生え始めた、“嫉妬”という醜い感情


「ほら、廉くんの結婚相手、この子!」

未祐はグランドハイアットの『フィオレンティーナ』で再会するなり、嬉しそうに私にスマホのFacebook画面を見せてきた。


彼女も大学の同級生で、私と同じような浮ついた学生時代を過ごしてきた友人だ。卒業からしばらくの時間が経っても、こうして二人で定期的に会うのは唯一の未祐だけだ。

もっとも彼女は未だ独身で、楽しそうに港区の最前線で活躍しているが。

「3歳も年上だって。ねぇ、30歳越えてるんだよ。それであの廉くん捕まえるなんて、やり手だよね。あー、結婚式楽しみ」

その画面に映っていたのは、おそらく以前『茶禅華』で見たのと同じ女だった。

0.5カラット、あるかないか。30歳を過ぎて小ぶりのダイヤモンドをわざわざSNSに写真を投稿するなんて、やはりその程度の女である。

私は荒んだ気持ちでその投稿から目を逸らし、真昼間から白ワインをオーダーしてしまう。

「でもさ、廉くんもイイ男になったよね。30歳前に結婚してシンガポール駐在なんてザ・王道だし、悪くないじゃん。こんなことなら、若いうちからもう少し仲良くしておけば良かったなぁ」

未祐の言葉を聞き流しながら、私は胸がチクリと痛むのを無視できなかった。

先日、突然廉から届いた結婚式の招待状。それを手にしてから、私の心は常に小さく波立っている。

そのうえ、未祐のような男慣れした女が廉を「悪くない」なんて品定めするのを聞くと、何とも言えない不快感が芽生えた。

「そうかな。商社マンが良い暮らしできるのなんて、駐在中だけでしょ?」

思わず嫌味を口にしたのは本心を隠すためだが、かえって胸に刺すような鋭い痛みが走る。

このときは認めようもなかったが、私の中で、徐々に“嫉妬”という醜い感情が育っていたのだ。



未祐と別れたあと、私は六本木ヒルズをあてもなく歩き回っていた。

週末だというのに特に予定もなく、家に帰っても一人きり。そんな惨めさを紛らわすべく、私は次から次へと直哉のクレジットカードで大量の買い物をする。


ふと魔が刺したのは、エストネーションで会計を待たされている時だった。

—久しぶり、元気?結婚式の招待状、ありがとう。楽しみにしてます。シンガポールは楽しい?

気づくと、廉にこんなLINEを送りつけていた。

多少の緊張感はあったものの、しかし私のメッセージには既読がつき、すぐに返信が返ってくる。

—おう、久しぶり!ありがとうな。シンガはなかなか楽しいけど、今は仕事で一時帰国してるよ。

—そうなんだ。じゃあ、今夜会えない?

廉が、東京にいる。

そう思うだけで、私は言いようのない衝動に駆られた。

一体、どうして今さら新婚の廉に会いたいなどと思ったのだろう。

でも、これは本当にただの出来心で、会って何がしたいとか、明確な理由があったわけでもない。

―OK。19時には行けると思う。里奈、どこにいる?

そして私は、これほど急な提案にも関わらず、返事を受け取る前から、廉がこの誘いに応じることを確信していた。


▶NEXT:8月1日 明日更新予定
セレブ妻・里奈と久々の再会。そのとき廉が感じる思いは、恋か友情か。

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
断りもなしにシンガポール行った、って、何であんたに断らなきゃいけないのよ?
2018/07/31 05:1999+返信11件
No Name
手に入らなかったから執着するんだろうな。
2018/07/31 05:3699+返信4件
No Name
最初から直哉に恋してないから
そして贅沢させてもらえてるから
浮気にも心に折り合いつけられるんだろうな。
もう、ただの同居人みたい
2018/07/31 05:2299+返信6件
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