美しい女に魅せられるのは、ふつうのこと
「東急プラザ銀座」の屋上『KIRIKO TERRACE -WATER SIDE-』に着いた時には、もう僕以外の全員が着席しているところだった。
ゆったりとしたプレミアムシートに浅く腰掛け、グループ全体を盛り上げようとする秋吉。隣のOL風の美女を挟むようにして、秋吉の同僚の宮崎君が座っている。そしてその隣にはアイドル系美女が並び、その横には…
あの女がいた。
盛り上がる4人に、少し置いてきぼりを食ったような顔をして座っていた黒髪の女の子。
夜風があまりにも心地良かったから。
普段なら賑やかな会話に一番に入っていく僕だけど、その日に限って、端っこの静かな席を選んだ。
そう、西岡ひとみの隣に。
「飲んでますか?」
たしか、そう声をかけたんだと思う。
僕は昔っから、いじめられっ子とか、クラスで1人ポツンとしてる奴とかを放って置けないタイプだった。だからその日も当たり前のように、賑やかな輪の中に入れないひとみを気遣った。
ひとみは少し緊張しながらも、歳は23歳で、誰もが知る大手企業の一般職勤めだと教えてくれた。
白いシャツワンピースから覗く二の腕は華奢なのに、胸元のあたりは分かりやすく大きさを主張していて、若い僕は当たり前の様に彼女に吸い寄せられたのだ。
やや大き過ぎる位のこぼれそうな瞳に、今時珍しい位の艶々した黒髪。よく見ると顔立ちは美しいのに、他の2人に比べて彼女に華やかさがないのは、この黒髪のせいなのかもしれないと思った。
シャンパンに酔った僕は、ふざけてひとみの髪に顔を近づけて呟く。
「綺麗な黒髪だね…」
まったく、あの時の僕ときたら調子に乗っていたとしか言いようがない。初対面の女性にあんな事を言ってのけるなんて、少し正気じゃなかったのだ。
だが、ひとみは嫌な顔一つすることなく応えてくれる。
「生まれてから一度も髪を染めたことがないんです」
生まれてから一度も…?
「それに、こういうお食事会にくるのも、初めてで」
今時こんな純粋な子がいるのか…?と、僕はひとみに対してかなり前のめりになった。
食事会の間中、秋吉には目もくれず僕のことだけを目で追い続けてくれて…僕らは何度も目が合い、そして微笑みあう。
その日は平日で、次の日はみんな仕事だったはずだけど、僕らは飲み続けた。
ひとみはごく自然に僕の五反田の自宅までついてきて、
そしてごく自然に、僕らは結ばれた。
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毎日暑いのでヒヤッとさせてください。