恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.3

女の幸せは、愛されること。左手薬指に光るダイヤを見て感じた“達成感”という名の快感

絵に描いたような幸せ


直哉とのハワイ旅行は、想像していたよりもずっと贅沢で快適なものだった。

マイルが相当残っているからと飛行機はビジネスクラスだったし、例のハレクラニの部屋もこの上なく優雅で居心地がいい。

幼い頃から家族でしょっちゅうハワイを訪れているという直哉は土地勘もあり、有名なレストランやゴルフ場にも連れて行ってくれた。

「リナ、ゴルフサークルにいたんだろ?もうちょっと上手いと思ってたんだけどな...」

だが、初日は私のゴルフの腕に少々幻滅したようだ。すると、次の日からはプライベートのコーチまで手配されていた。

直哉は、まるで面倒見のいい父親のようだった。私はただ彼に甘えるだけで、何事もスムーズに楽しむことができる。

「リナはまだ若くて可愛いのに賢いし、こうやって趣味を共有できるのもいいよな」

練習の甲斐あり、みるみる上達していく私を見て、直哉は満足気に何度もそう言った。

南の島を堪能し、彼の希望通りに段々と二人でゴルフも楽しめるようになるうち、直哉と私は自然と親密さを増していく。

そしてそれは、最終日にハレクラニ内の『ラ メール』でフレンチを堪能している時だった。


「リナ......。本当に、俺の奥さんにならない?」

夕焼けで美しく染まった空に、耳に心地良い波の音。

何となく予感はしていたが、私は本当に直哉にプロポーズされたのだ。しかも、この上なくロマンチックな空間で。

普段は滅多なことでは物怖じなどしない大人の彼の目が、ほんの少しだけ不安げに揺れている。

...こんな風に結婚を申し込まれたとき、女は一般的にどんな感情を抱くのだろう。

心の底から幸せが湧き上がるような感動を覚え、相手の男への愛情も溢れんばかりに膨らむだろうか。

そして、この時を一生忘れはしないと、目の前の光景を瞼に強く焼き付けるのだろうか。

しかし、私の心に反射的に浮かんだのは、「上手いことやったね、私はなんて幸運な女だろう」という、自分への賞賛のような感情だった。

絵に描いたように甘い二人をどこか他人事のように思いながらも、だが私は、この場面に順応するように目を適度に潤ませ、言葉を詰まらせながらゆっくりと頷く。

「...うれしい」

―そいつのこと、結婚するほど好きなわけ?―

そのとき、憎たらしい廉の言葉が脳裏を過ぎった気がしたが、すぐに頭から振り払った。

重要なのは、間違いなく愛されることだ。

一昔前に流行った小説のように、死ぬ間際に誰かを愛した記憶を思い出したところで、女が幸せになれる保証はない。

迷いだとか本心だとか、無駄なセンチメンタルは必要ない。私は、私の人生に必要な選択と決断だけすればいい。

そうして甘い一夜を過ごした直哉と私は、帰国日の空港に向かう前、大急ぎでカラカウア通りのブティックをまわり、ティファニーで婚約指輪を購入した。

もう、廉のことを思い出すことはなかった。

そしてあのとき、大きなダイヤモンドを初めて左手薬指につけて感じたのは、“幸せ”という真っ当な感情だと思っていた。

あれが“達成感”という名の快感だったと気づいたのは、私がもう随分と歳を取ってからのことだ。


▶NEXT:7月11日 明日更新予定
里奈が直哉と結婚へ。そのことを知った廉の、胸の内は...

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
別にリナの選択間違ってないと思うけどな
廉は何がしたいんだろ…
やることが幼稚
2018/07/10 05:3699+返信14件
No Name
こんなプロポーズされたら、普通に嬉しいと思う。仕事から逃げたい訳だし丁度いい。

あの時ああすれば…とかって、それこそ言い訳で、判断間違えたなんて、後からしか分からないので…。
2018/07/10 05:3799+返信4件
No Name
廉、下品
薄汚れた感じ
先週のコメに、会ったその日に寝る、夜な夜な相手を変えるような女、いくら着飾って完璧に化粧しても不潔感が漂うってのがあったけど、まさにその相手である廉にも同じことが言える。
こんな奴に嫌悪感を抱くのは当たり前だし、自分を大事にしてくれる人と結婚しようって、何が間違ってるの?
2018/07/10 05:4799+返信2件
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