2018.07.04
恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.2「おっ、里奈じゃん。最近どうよ?」
軽いノリで声をかけたのは、どことなく漂う気まずさを隠すためだ。
就職活動中は随分と密だったはずなのに、ふたりで協力しあって内定を勝ち取ったはずなのに、入社後、僕が同期や先輩たちと距離を縮めるにつれてなぜか里奈とは疎遠になっていた。
「…別に、普通」
そっけない返事。何にイラついているのか、最近の里奈はいつもこうだ。
ツンと上を向いた彼女の首筋に目が留まる。もともと華奢だったが、さらに痩せた気がする。
そういえば里奈は、随分前から同期の集まりにも顔を出さなくなっていた。
単に群れるのが嫌なのだろうと大して気にしていなかったが、もしかすると何かあったのかもしれない。
−大丈夫か?
そう聞いてあげればよかったのに、代わりに口から出たのは子どもっぽい憎まれ口だった。
「相変わらず、可愛くねーなぁ」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
里奈は瞳を潤ませ、僕を睨みつける。そして狼狽える僕をその場に残し、足早に立ち去ってしまった。
…もしこの時、僕がもう少し大人だったら。里奈の苦しみに気づいてあげられていたら。
未来は、変わっていたのだろうか。
女の顔
この頃も、里奈に男がいることは知っていた。
そもそも学生時代からずっと、里奈に男の影がなかった時などない。
しかし僕はそれまで、彼女が男と一緒にいる場面を実際に目にしたことはなかった。
彼女は同年代の男になど用はないといった態度で、学内の男や同期には目もくれない。付き合う相手はいつも、多くを与え甘やかしてくれる随分と年上の男だったからだ。
「あれ、相沢じゃね?」
里奈に要らぬことを言ってしまった数日後のこと。
オフィスを出てすぐ、一緒にいた同期のひとりが僕に目配せをした。
その日は20時から自称モデルの女たちと恵比寿で食事会があり、時間もギリギリだったので、タクシーを拾おうとして道に出たところだった。
通りの向こう側に、真っ赤なオープンカーが停まっている。
その車に、慣れた様子で乗り込む女は…間違いなく里奈だった。
オフィスではいつも束ねている髪を下ろしジャケットを脱いだ彼女は、身体にぴたりと密着するワンピース姿。
彼女の仕草には洗練された艶があり、宵の丸の内、ポルシェの車内で寄り添うふたりは、まるでドラマのワンシーンさながらだ。
…別に、相手の男は誰だろう、なんて詮索したわけじゃない。
ただ目を離せずにいた僕は、運転席の男が正面を向いた瞬間に気がついてしまったのだ。
−二階堂直哉!?
男の顔に、見覚えがあった。就活中、OB訪問で僕は二階堂に会っていたのだ。
立場上、表には一切出さなかったが、初対面からいけ好かない男だった。
一応、仕事内容や社内の様子などを教えてくれはするものの、彼の話はどれもこれも表面的で“熱”を感じない。
終始人を見下したような態度で、自分だけは高みの見物をしているような語り口だった。
それもそのはずだ。二階堂は僕が入社するのと入れ違いで会社を辞めていた。彼は実家の家業を継ぐことが決まっており、二階堂にとっては会社での出世など、そもそもまるで関係のない話だったのだ。
「会社の目の前で、よくやるよな」
同期が、嘲笑うように言ったセリフで我に返るまで、僕の心は終始モヤモヤとした感情に支配され続けた。
それは二階堂の恵まれた境遇に対する、男としての嫉妬心だっただろうか。
…それとも、里奈が二階堂に向ける女の顔を見てしまったせいだろうか。
「丸ぽちゃ君」(そのまま)
「乳首ヤロウ」(白シャツに乳首が透けてた)「何の変哲も無い人」(disりすらない、記憶に残らない人)
と呼ばれてた。女子はあっさり一次会で退散。商社と合コンしたのはこれが最初で最期。
この小説のようなフェロモンあふれる商社マンと会ってみたかったです。
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