リビングの棚の上には、数多くの写真が飾られている。
ウェディングドレスをまとった塔子の写真や、おだやかにほほ笑む夫婦二人の写真。
それよりも倍以上の幅をとって何枚も飾られている、ランドセルや制服姿の少女の写真。クレヨンのつたない字で「I LOVE DAD」と書かれた画用紙。
山中には娘がいる。30代の半ばで結婚した前妻の子、七海。高校1年生。
前妻はすでに再婚しているため遺産相続権はないが、この七海ちゃんにはそれがある。山中塔子と、ちょうど半分ずつ。
1988年生まれ。同じ年だからだろうか。真奈は、この件の担当になってからもう数えられないほどくり返している“ある想像”をめぐらせた。
-もし、私が塔子だったら。
自分と10いくつしか歳の変わらない、前妻の子。
仲が良いはずがない。しかも相手は生意気盛りのティーンエイジャーである。
お互いに“あの女には1円だって渡したくない状態”に陥っていてもおかしくない。
だから次の瞬間、山中塔子の口から飛び出した言葉に、真奈は耳を疑った。
「遺産とか保険とか、難しいことはよく分かりませんが、私は何も要りません。ぜんぶ七海さんに行くように計らってくださいますか」
「は!?…ああ、失礼。恐縮ですが、配分につきましては当社が決定することではなく」
「うん。ですよね、知ってます」
真奈は二度と“ある想像”をしなくなった。
この女は、理解の範疇を軽く超えている。
「じゃあ代わりと言ってはなんですが、話を聞いてくださいね。私が、わざわざ自分から“愛していない”って言う理由について」
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この記事へのコメント
一番、プライベートガーデン付きのリビング@35階が気になりました♡
見てみたい!
これって紀州のドンファンの事件からきてるのかな?