春菜の話を掘り下げていくと、彼女が結婚できない理由は明白だった。
すっと通った鼻筋に、ぽってり気味の厚い唇。足も細くて長くてバービー人形のようだ。
外見は、男女問わず合格だと言うだろう。それなのに、彼女は決定的に“あるもの”が欠けているのだ。
「私の好きなタイプはって聞かれた時には...優しくて誠実で、良い父親になりそうな人って答えたわよ。いたって、普通の回答でしょ?」
少々鼻息が荒くなっている春菜を、龍平はふむ、と頷きながら見つめた。
たしかに、一見間違った回答ではない。ごくごく一般的な答えであるがゆえ、大概の男性は自分が当てはまると勘違いできる回答でもある。
「まぁ、目の前の男性に絶対当てはまらないようなことを言うよりはマシだな」
『Bar 粋』のウィスキーが注がれたバカラのグラスに口をつけながら、龍平はもう一度、ふむ、と唸った。
「な、なんなのよ。何か言いたいことがあるなら、私のどこが悪かったのか早く教えてよ」
静かな店内に、春菜の甲高い声が再び鳴り響く。
男女ともに出会った瞬間から、少なからず相手をどこかジャッジしている節があることは否めない。
男性だったら分かりやすく外見から入り、そして内面を見ていく。女性ならば、まずは肩書き、そして各々の譲れないポイントでふるいにかける。
“男性の肩書きを全く見ていない”、何ていうのはこの東京で婚活をしている限り嘘になるだろう。
そんなことを思いながら、今回その男が逃げた理由を春菜に伝えてみる。
「春菜の回答のなかで、良い父親になりそうってあるじゃん。それを言われると、“この子は結婚願望が強いのか?”って思って、男性は勝手に身構えるよ」
相手が、結婚願望の強い男性ならば良い。
しかし仮に結婚願望のない男性、及び真面目な男性になると話は別である。
結婚適齢期の女性と交際となると、男性だってそれなりの覚悟を決めて交際を開始しなければならない。
まだ何も始まっていないうちから、結婚を匂わせられると、男は何故か逃げ腰になってしまうもの。
結婚という鎖に縛られたくない!と、心のどこかで急に叫び始めるのだ。
「嘘でしょ?私は、結婚したいなんて一言も言ってないんだけど!何なの、その男の勝手な勘違いは」
春菜は不服そうな顔でナッツを口に頬張り、「独身の龍平には言われたくない」とか「彼は私の本質を見てくれてなかった」だの、ぶつくさと自分の話を続けている。
そんな彼女の姿を見て、龍平は春菜の決定的な欠点を言っていいものかと思案していた。
この記事へのコメント
違う話になってしまっているから、結局自分が言いたいことが言えなくて悶々とするけど、わざわざ話を元に戻してまでいう気にならない。
もういっか…って。