シバユカ Vol.4

シバユカ:甘い誘いには裏がある。パトロンからの出資提案に隠された、不都合な真実

パトロンからの提案


「…そうだ。シバユカ、ちょっとこっちに来て」

カフェオープンの苦労話を一通り聞き終えたとき、マリナが思い出したように私をいざなった。

「例の、ここの資金を出してくれてる人を紹介するわ。先に言うけど別に私、その人の愛人とかじゃないから(笑)

飲食系だったかな?で成功した人で、今は投資家なの。私以外にもいろんな事業に投資してて、だから…あ、いた。柚木さん!」

すべてを言い終えぬ間に、マリナはパトロンを見つけたようだ。

まだ30代だろうか。想像よりかなり若い男のもとに、マリナは駆け寄っていった。

−愛人じゃない、のか。

マリナの言葉に、私はホッとしていた。

彼女が嘘を言ったようには(少なくとも私には)見えなかったし、もしかするとパトロン=愛人関係、という発想は、実態をよく知らぬ者の安っぽい思考なのかもしれない。


「柚木さん、紹介させてください。こちら、お友達のシバユカちゃん。

少し前に出会ったばかりなんだけど、見ての通り可愛いしとても賢くて素敵な子なの。彼女も、これからお料理の仕事をしていきたいそうで。…ね?」

そう言って、マリナが私を振り返る。

柚木という男は「こんにちは」とだけ会釈したあと、黙って私を見つめている。

柚木は、想像していたようなギラギラした港区おじさんではなかった。年の割に落ち着いていて、温和な表情とは裏腹に、簡単に人を寄せ付けないオーラがある。

「は…い。今はOLなんですけど、結婚をして基盤ができたら自宅でお料理教室をしたり、フードスタイリングなんかの仕事をしていきたくて」

遠慮がちにそう答えると、柚木は表情一つ変えず「ふーん」と呟く。

その、人を見透かすような目に、私はマリナが以前「すごくやり手の人」と評していた言葉を思い出した。

「なんで、今じゃダメなの?」

「え…?」

柚木に問われ、私は戸惑う。

「なんで、結婚してからなの?今じゃなくて」

「それは…単純に、資金がないから」

答えながら、「それは違う」と自分にツッコミを入れる。

資金がないからなど、ただの言い訳に過ぎない。

資金など、やる気さえあればいくらだって作り出せるのだから。

事業計画書を書いて融資を受けたっていいし、国や市区町村に補助金申請をすることだってできる。流行りのクラウドファンディングを活用する手もあるだろう。

…しかし私は、敢えてそれを望まない。

もっと他に方法があることを、知っているからだ。

黙り込んでしまった私を、柚木はどこか面白そうに見つめる。

そしておもむろにポケットからカードケースを取り出すと、私に名刺を差し出しこう言ったのだ。

「シバユカちゃんだっけ?…見どころありそうだし、資金が必要なら相談に乗るよ。やる気があるなら、連絡して」

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