2018.03.25
エビージョの恋 Vol.1身動きのとれない女たち
「...もう少し、お茶でもして帰る?」
3人の親友たちを見送ると、理恵子がポツリと言った。
「うん」
時刻はまだ22時過ぎ。以前は終電も気にせず、5人揃って深夜までよく遊んでいた。
別に、仲が悪くなったわけでも、友人としての心持ちが変わったわけでもない。しかし、“待つ男”のいる女と自分たちの間には、目には見えずとも明確な差があるのは間違いなかった。
理恵子には一応恋人がいるが、学生時代から10年近くの付き合いになるにもかかわらず、男には結婚願望がない。
それどころか、男はたびたび他の女に目移りしては彼女の元に戻るという愚行を繰り返しており、腐れ縁と言えばまだ聞こえは良いが、安定とは程遠い状態だった。
進むことも戻ることもできず、何年も同じ場所で身動きの取れない女。
お互いわざわざ口には出さないが、理恵子との仲間意識は年々強くなるように思える。
「ねぇ、サトシくんが、今から飲まない?だって。どうする?」
スマホを眺める理恵子に問われ、“エビダン”と陰であだ名されるサトシの顔が頭に浮かんだ。
人の良さそうな和やかな表情、穏やかな物腰、裏表のない明るい会話力。こんな寂しげ夜に、彼のような男友達の存在はとても有難い。
結婚や妊娠に踏み切る女ともだち。愛する男の嫁、その子どもの受験。そして、28歳の自分の行く末―。
少なくとも今は、難しいことも深刻なことも、考えたくはなかったから。
◆
「じゃあ改めて、カンパーイ!」
ハイボールのグラスに口をつけた瞬間、つい先程までの途方もない虚無感が消えた。
指定された『ノンベエエビス』は、恵比寿南のピーコック地下飲食街にある。ここは気楽に、気さくに、ゆるゆるとお酒と会話を楽しめる居心地の良い店で、サトシは男友達を連れていた。
「最近どう?元気だった?」
屈託のない彼の笑顔を前にすると、ふっと心の緊張感がほぐれる。
爽やかで温かい、それでいて軽すぎも重すぎもしないノリの良さ。恵比寿界隈の男が持つ、独特の安心感だ。
「元気だよ。そちらはどう?彼女できた?」
志乃が質問を返すと、彼は「別に」と言いながらも照れたように目を逸らし、少し顔を赤らめた。きっと、気になる女の子でもいるのだろう。
「それよりさ、コイツが少し前に彼女と別れて、最近暗いんだ。志乃もよかったら遊んであげてよ」
「どうか、俺と遊んであげてください。ていうか志乃ちゃん、マジ可愛いっすね」
サトシが紹介した哲也という男の突拍子のない言葉に、志乃は思わず笑いが溢れた。すでに少し酔っている彼は、サトシと同様、年相応の健全さのある好青年だ。
―あっ...。
酒が進み、場が和んだとき、志乃はスマホの振動に気づいた。
浩一から数回着信があり、LINEもきている。クライアントの接待がはやく終わったようだ。
「...ごめん。私、そろそろ...」
遠慮がちに告げると、理恵子はすべてを理解したように静かに微笑み、サトシと哲也は分かりやすく不満を口にした。
三者三様の視線を背中に感じながら、店を出る。
―いつかは別れる。でも、今日じゃない...。
逸る気持ちを沈めるため、そんな言葉を頭の中で呪文のように唱えながら、志乃は自宅へと急いだ。
▶NEXT:3月31日 土曜日更新予定
辛い恋を諦めようとする志乃。すると、浩一がとうとう行動を起こす...?!
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事で紹介したお店
ノンベエエビス
最近、結婚って何だろうって考えてしまいます。
ずっと1人の人を愛していくのは不可能なんですかね。
恋愛感情は3,4年でなくなるって聞いたことあるし。
いい旦那で好きだったけど、あることで悩んでるうちに、旦那に対する愛情が冷めつつあります。
思い切って旦那に打ち明けたけど、旦那は改善してくれる兆しが見えません。
だからといって不倫するつもりはないですが、こんな冷めたまま、人生を送...続きを見るっていくのかなって思うと寂しいです。
世の夫婦はどうしてるのかなぁ…。
こんな薄っぺらい男、さっさと別れないと
今期逃すよ。
その友達も、10年も付き合って浮気されまくってまで
別れないなんて。
もう気の毒すぎで可哀想。
【エビージョの恋】の記事一覧
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