近藤の直感
「近藤さん、どうして安い“梅プラン”でクロージングしたんですか?」
商談を終えた、帰り道。
メトロに向かう地下通路を歩きながら、保はどうにも納得いかぬ声色で尋ねた。
近藤先輩ともあろう人が、まさか契約しやすい低額プランにヒヨるなんて。
すると近藤は、間髪入れずにこう断言した。
「あの二人、絶対に離婚するよ」
「え!?」
佐田夫妻が、離婚?
あんなに仲睦まじく、ラブラブっぷりを恥ずかしげもなく見せつけていた、あの二人が?
「ああ。過去、数々の新婚カップルを見てきた俺が言うんだから間違いないね。あんな風に、ラブラブすぎる夫婦は要注意なんだよ。周りが見えていない、つまり正常な判断能力を失ってるってことだから。
今は脳内お花畑状態で“あばたもえくぼ”なんだろうけど、結婚は現実。そのうち夢から醒めた時が、恐ろしいよ。
今回の保険は夫婦の貯蓄が目的だったし、“松プラン”で契約したら、離婚で早期解約されちゃった時にダメージでかいだろ?」
あんなにラブラブだったのに...
「ああ、三上さん。この度はすみません…」
ようやく繋がった電話越しに聞く佐田勲の声は、半年前とは別人のように暗かった。
「いえ…あの、解約通知が届いていたものですから。いかがされましたか?」
保は平静を装い、できる限り穏やかな声になるよう努める。
しかし数秒の沈黙の後、佐田が告げたセリフには、驚愕せずにいられなかった。
「実は、お恥ずかしい話ですが…妻と離婚しまして」
「え!!」
−あの二人、絶対に離婚するよ。
保の脳裏に、半年前の近藤の言葉が蘇る。
あんなに幸せいっぱいに見えた二人に、一体何があったというのか。いや、近藤の言う通り、あのラブラブだった二人は、ただ熱に浮かされ正常な判断能力を失っていただけだったのか。
「そう…でしたか。いえ、お気になさらず」
保は失礼のないよう、通り一遍の労わりの言葉を告げて電話を切った。
−ラブラブすぎるカップルは要注意、だな...。
消えない早期解約の現実を噛み締め、心にメモを取る。
保険プランナーの仕事をしていると、こんな風に、知る必要のない夫婦の表と裏を、日常的に目撃してしまう。
その度に、保は自らの考えを確信へと変えていくのだった。
「やはり結婚は、最大のリスクだ」と。
▶NEXT:3月5日 月曜更新予定
アンチ結婚の保。しかし、ついに好みど真ん中の美女に出会ってしまう!
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
東京カレンダーが運営するレストラン予約サービス「グルカレ」でワンランク上の食体験を。
今、日本橋には話題のレストランの続々出店中。デートにおすすめのレストランはこちら!
日本橋デートにおすすめのレストラン
この記事へのコメント
あっでも次回予告見る限り恋愛系なのかな?