−保険プランニング−
そのとき、人間の本性を垣間見ることになる。
その人に適した保険を設計するには、人生計画、金銭事情、価値観、そして家族や異性関係についても…様々なヒアリングを重ねる必要があるからだ。
三上保(みかみ・たもつ/30歳)は、外資系保険会社の保険プランナー。
東京のアッパーな男女を数多く顧客にもつ彼は、順調に成績を伸ばし、トップセールスマンとしての地位を確立している。
しかし表からは知る由もない男女の本性を目撃するたび、「結婚は最大のリスクである」と考えを拗らせていくのだった。
保の日課
午前7時半。
保は青山の自宅マンションを出ると、扉の鍵がかかっていることを、2回、確認した。
これは、保の日課である。
学生時代に短期留学していたロンドンで盗難被害にあって以来、戸締りには念には念を入れておかないと気が済まなくなってしまった。
革靴の音を響かせてエントランスを通り過ぎ、自動ドアを抜ける。その瞬間…ふいに後ろ髪を引かれて、保は「しまった」と声を出した。
保険プランナーの給与システムはコミッション・セールス。つまり、結果が全てだ。
そのため保は“習慣”や“験担ぎ”にやや神経質なほど気を使っており、保険プランナーに転職してから1年半、毎日欠かさず神棚に手を合わせているのである。
しかし今朝はあろうことか、その大切な習慣を失念してしまったのだ。
−まずい。今日は嫌な予感がするぞ…。
まだ寒さ厳しい2月の朝。
保はブルっと身震いをし、気を取り直すようにしてスタンドカラーコートの襟を正すと、足早に駅へと道を急いだ。
この記事へのコメント
あっでも次回予告見る限り恋愛系なのかな?